伝統の水郷遊覧、新たな素材で継承へ
茨城県潮来市で長年親しまれてきた「ろ舟遊覧」に、繊維強化プラスチック(FRP)製のろ舟が登場した。木造の手こぎ舟で水郷を案内するこの伝統的な観光事業は、高齢化による担い手不足と資材高騰という二重の課題に直面していた。地元の船大工が次々と引退し、数年前には最後の1人も亡くなり、存続の危機に陥っていたのだ。
時代の流れを受け入れた決断
潮来市では昭和期まで、ろ舟が住民の重要な移動手段として活用されていた。現在は市の第三セクター「株式会社いたこ」が年間を通じて前川での遊覧事業を運営しているが、これまで順風満帆とは言えなかった。主にスギ材を使用していた木造舟は、資材価格の高騰も相まって材料確保が困難となり、文化継承に暗雲が垂れ込めていた。
市の担当者は「素材にこだわっていたら、いずれ存続が難しくなってしまう。仕方ない時代の流れかなと感じる」と語る。そんな中、鉾田市の「関根造船」がFRPで霞ケ浦の観光帆ひき船を建造した実績を知り、市は同社に製造を依頼した。
木造の風情を残した技術
関根造船の関根一彦社長(68)は、かつて親子でろ舟遊覧を楽しんでいた経験を持つ。「きれいで渋い色合いが好きだった」という関根社長は、木目調に染めた不織布を活用することで、木造のような外観を再現することに成功した。特にこだわったのは、ろと舟の接続部分。ここは木材をそのまま使用し、船頭がろを漕ぐ際に風情ある音が響くように設計されている。
今回製造されたFRP製ろ舟は、既存の木造舟を型取りして作られた。全長約8メートルの12人乗りで、現時点では1艘のみの導入となっている。市では木造舟17艘も引き続き使用し、修繕しながら可能な限り活用していく方針だ。木造舟が使えなくなった場合には、FRP製を増やして対応する計画である。
コスト面でも優位性
FRP製ろ舟の大きな利点はコスト面にある。数百万円で建造可能で、木造舟よりも大幅に安価に済むという。また、横揺れを抑えるため舟底には補強材が使用されており、安定性と操縦性が向上している。
14日からFRP製ろ舟の運用が開始され、試乗した原浩道市長は「見た目も乗り心地も、木造と遜色ない」と太鼓判を押した。実際に操縦する船頭の男性も「安定性があって操縦しやすい。お客さんも特に違和感なく乗ってくれている」とその手応えを語っている。
伝統と革新の調和
潮来市のろ舟遊覧は、水運の要所として栄えた同市の歴史を今に伝える貴重な文化資源である。高齢化や担い手不足という現代的な課題に対して、素材の変更という現実的な解決策を選択した。見た目は木造とほとんど変わらず、乗り心地も同等という評価を得ていることから、伝統の継承と実用性の両立が図られていると言える。
この取り組みは、地方の伝統文化が直面する普遍的な課題に対する一つの回答を示している。素材は変わっても、水郷をゆったりと進むろ舟の風情はこれからも訪れる人々を魅了し続けるだろう。