愛知・春日井に「野良猫捕獲の神」 熟練の技でTNR活動支える72歳女性の20年以上の軌跡
野良猫の殺処分を減らす方法として全国的に広がる「TNR活動」。捕獲(Trap)、不妊去勢手術(Neuter)、元の場所に戻す(Return)の一連の流れの中で、最も難しいとされる捕獲の分野に「神」と称される人物が愛知県春日井市にいる。その技の秘訣と活動への情熱に密着した。
わずか5分で捕獲成功 20年以上の経験が生む確かな手際
春日井市下原町の民家に軽自動車で現れたのは、保田冨美子さん(72)。荷台には捕獲器や餌、マタタビなどを積んでいる。この日狙う白黒のオス猫の外見を資料で確認するやいなや、「あそこにいるね」と即座に発見。20メートルほど先の畑の茂みからこちらをうかがう猫を捉えた。
「ここらへんかな」と車庫の前に迷うことなく捕獲器を設置。奥に餌を入れて物陰に隠れると、猫は警戒しながらもまっすぐおりの中へ。到着からわずか5分足らずでの捕獲成功だった。捕獲器に布をかぶせる保田さんの手際はまさに熟練の域に達している。
「猫の性格を知ること」が最大のコツ 風向きや移動経路も計算
春日井市と近郊で野良猫のTNRに取り組むボランティア団体「春日井さくら猫の会」に所属する保田さん。活動歴は20年以上に及び、捕獲のコツは「猫の性格を知ること」と意外にもシンプルだ。
「三毛猫はツンデレで女王様気質。サビ猫(黒と茶が混ざる)は頭が良い。白黒はフレンドリー。あとメスの方が用心深い」と、長年の経験から得た猫の性格分析を語る。この日の狙いが白黒のオスだったため、比較的目につきやすい位置に捕獲器を設置したが、餌のにおいが届くように風向きを計算し、猫が好む移動経路を読む必要もあるという。
失敗なしの実績に「センスがあったんでしょう」 犬派と語る意外な一面
春日井市では2006年度に野良猫の不妊去勢手術の補助金制度を開始。申請を受けて許可した個体に限って支給しているため、狙っていない猫を捕まえると、許可が下りるまで数日から1週間ほど自宅で保護しなくてはならず、ボランティアの大きな負担となる。
失敗を避けたい他のボランティアからも捕獲依頼が舞い込む保田さんは、手術とリターンまで担当し「毎日のように働いている」。他のボランティアには姿も現さない猫が、保田さんにかかればヒョッコリ顔を出す。「失敗したことはないし苦戦した記憶もない。センスがあったんでしょう。犬派なんだけど」と笑う。
「殺処分ゼロまで終わりじゃない」 後継者不足に悩みながらも続ける理由
後継者不足が最大の悩みだ。「75歳までやったらゆっくりしたいと思っているけど、頼まれたらきっと行くんでしょうね」と複雑な心境を明かす。なぜそこまで猫のために頑張るのかという問いには、こう答えた。
「なんでだろう。きっかけは近所にいた白い雄猫。弱っておなかをすかせているのがかわいそうで、とにかく『増やしたらだめ』と思った。続けているのは、一度始めたら途中で止まれるような活動ではないから」
繁殖力が高い猫は、1組のつがいから1年で約20匹が生まれるとされる。「TNR活動は殺処分ゼロを達成するまで終わりじゃない」と力を込めた。
愛知県の野良猫殺処分 減少傾向も課題は山積み
愛知県動物愛護センターが2024年度に殺処分した猫は103匹(自然死を含む)で、2014年度の約千匹から減少傾向にある。同センターではTNR活動の推進や捨て猫の減少が理由とみている。一宮市を除く中核市(豊橋、岡崎、豊田)や名古屋市には独自の同様の施設があるが、依然として多くの野良猫が保護を必要としている。
保田さんのような熟練ボランティアの存在が、地域のTNR活動を支える重要な柱となっている。その技術と情熱は、殺処分ゼロを目指す愛知県の取り組みに不可欠な要素だ。春日井の「捕獲の神」は今日も、野良猫たちの命を救うために活動を続けている。
