朝日新聞は、総務省消防庁への情報公開請求を通じて、2019年からの5年間に全国の消防本部が記録した約3千万人の「救急搬送人員データ」を入手。119番通報から現場での救助活動を経て病院で医師に引き継ぐまでの所要時間を詳細に分析した。
水難事故の救急搬送に要する時間の実態
分析の結果、海や川、池などでの水難事故は、119番通報から病院到着までに平均で約2時間を要することが明らかになった。これは、一般の救急搬送と比較して著しく長い時間であり、その背景には複数の要因が存在する。
現場の地形がもたらす課題
5月中旬、福島県いわき市の勿来海水浴場を訪れた。救急車が停められる駐車場から水際までは約100メートル。その間には砂浜が広がり、段差や起伏がある。このような地形は、救急隊員が迅速に現場に到達する妨げとなっている。
いわき市消防本部警防課の会田浩二救急係長は、「沖で溺れていれば捜索や救助に時間がかかる。水難事故は救急搬送の時間が長くなりがちだ」と指摘する。
実際の事例から見る時間経過
2021年7月18日の朝、この海岸で投げ釣りをしていた会社員の男性(当時37歳)が沖に流された。男性は海上保安庁の船で救助され、その後病院に運ばれたが死亡した。119番通報から病院で医師に引き継ぐまで、約2時間が経過していた。
この事例は、水難事故における救急搬送の時間的課題を如実に示している。特に、沖合での事故では、捜索活動に加え、救助後の搬送にも時間を要する。
データが示す救急搬送の課題
今回の分析では、水難事故に限らず、山岳事故や交通事故など、現場へのアクセスが困難なケースでも搬送時間が長引く傾向が確認された。しかし、水難事故は特に顕著であり、その原因として以下の点が挙げられる。
- 現場が水域であるため、陸上からのアプローチが制限される
- 溺者の位置特定に時間がかかる
- 救助には船舶や潜水士など専門的なリソースが必要
- 搬送経路が限られ、遠回りを余儀なくされることが多い
これらの要因が複合的に作用し、結果として救急搬送の長時間化を招いている。
改善に向けた取り組み
消防庁や各地の消防本部では、水難事故対応の訓練を強化するとともに、ドローンやヘリコプターを活用した迅速な捜索体制の構築を進めている。また、海水浴場などでは、事前に救急車両の進入経路を確保するなどの対策も検討されている。
しかし、根本的な解決には至っておらず、今後もデータに基づいた分析と、現場の実情に即した対策の継続が求められる。
まとめ
水難事故における救急搬送の長時間化は、救命率の向上を妨げる重大な課題である。今回の分析結果は、関係機関が対策を強化するための重要な基礎データとなる。読者には、水辺での活動時には安全に十分注意し、万が一の際には迅速な通報と救助体制への協力をお願いしたい。



