東京23区のニュース。足立区綾瀬で2016年、小学1年生の高田謙真君(当時7歳)がトラックにはねられ死亡した事故から、今年で10年が経過した。母親の香さん(51)は、謙真君が残した西洋アサガオの種を全国に配る活動を続け、交通安全を訴えている。「けんちゃんの朝顔」は25都道府県で植えられ、交通安全を願うシンボルとなっている。
母の思いを込めた種まき
先月26日、足立区の防犯拠点施設前の花壇で、香さんは西洋アサガオの種を植えた。「今年もきれいな花を咲かせてほしい」と語り、その後「謙真と会えなくなって10年もたつんですね」とつぶやいた。
事故の記憶
10年前の2月15日午後3時ごろ、自宅にいた香さんの携帯電話が鳴った。「けんちゃんがトラックにはねられた」。謙真君が通う区立綾瀬小の教員からの連絡だった。搬送先の病院を告げられても気が動転し、メモが取れず何度も聞き返したという。
下校途中の謙真君は、交差点の横断歩道を青信号で渡っていたところ、右折してきた2トントラックにはねられた。原因はトラック運転手の前方不注意だった。
病院での祈り
香さんが病院に駆けつけると、謙真君は集中治療室に入っていた。手を握り、名前を呼びかけることもできず、病院の廊下でひたすら回復を祈り続けたが、謙真君が目を覚ますことはなかった。
この日の朝、謙真君はいつものように学校に出かけた。甘えん坊で、7歳上の姉に本を読んでもらうのが好きだった。明るく元気いっぱいな性格は自分と似ているところもあった。そんな息子が突然この世からいなくなる現実を受け止められず、自宅でただ時を過ごした。
種との再会
事故から数週間後、自宅の玄関に置かれたままだった正月用の鏡餅を片付けようとした時、餅の台から黒いものがぱらぱらと落ちてきた。それは西洋アサガオの種だった。玄関では鏡餅を飾る頃まで、謙真君が夏休みの宿題で育てたアサガオのプランターが残されていた。一緒に外出する時、身支度を先に終えた謙真君が手持ち無沙汰な様子で枯れたアサガオから種をむしっていた姿を思い出した。
「けんちゃんが種を残してくれたんですね」。後日、警視庁の被害者支援担当者に電話で話すと、そう言われた。春になり、綾瀬小に種を持ち込むと、校長は「交通事故で亡くなる子どもが出ないように育てたい」と受け取ってくれた。種は同級生が学校で育て、その年にたくさんの花を付けた。元気いっぱいに咲き誇るアサガオを見た時、謙真君の笑顔を思い出した。
全国への広がり
2018年からは、全国の学校や警察、交通事業者で自身の体験と交通安全への思いを語り、アサガオの種を分ける活動を始めた。北は北海道から南は宮崎県まで訪れ、種の郵送も受け付けた。
謙真君が生きていれば、今月15日に18歳となり、成人を迎えていた。娘は社会人になり、時の経過を感じる。それでも、成長した息子の姿はどうしてもイメージできない。街で黄色いカバーを付けたランドセルを背負う児童を見ると、小学1年だった謙真君の無邪気な笑顔を思い出す。
交通安全を訴え、アサガオの種を広める活動は、現在も月3回ほどのペースで続けている。特に子ども向けには「たとえルールを守っていても、事故に遭う危険はある。自分の命を大切にするために注意をしてほしい」と強く訴える。
いつしか「けんちゃんの朝顔」と呼ばれるようになったアサガオの種は、今や25都道府県で数百か所に植えられ、交通安全を呼びかけるシンボルとなっている。今年の夏も、「ヘブンリーブルー(天上の青)」と呼ばれる真っ青な花をたくさん咲かせようと、各地で芽を伸ばし始めている。



