埼玉県内で在日クルド人に対するヘイト行為を批判した弁護士や地方議員らが、インターネット上で誹謗中傷や殺害予告の標的となる事態が相次いでいる。差別に反対する声を上げた人々が、社会的に弱い立場にあるがゆえに攻撃される構図が浮き彫りになっている。
弁護士への個人攻撃
在日クルド人排斥を主張するデモの差し止めを求めた弁護団の一員で、在日コリアンでもある金英功弁護士は、2024年11月にさいたま市で開いた記者会見後、急速にネット上で個人攻撃にさらされた。会見ではデモ禁止の仮処分を勝ち取った成果を説明し、多くのメディアが報じた。その後、金弁護士に対しては「朝鮮人弁護士が日本を乗っ取ろうとしている」「外国人から弁護士資格を奪え」といった中傷や、「日本から出て行け」と脅す電話が事務所に寄せられた。
同席した師岡康子弁護士は「同じ会見に出席した他の弁護士は攻撃されず、金さんだけが標的になった。マイノリティーだけがたたかれる二重の差別だ」と指摘する。金弁護士はネット中傷の投稿者の一人に対し、さいたま地裁に720万円の損害賠償を求める訴訟を提起。「同じ境遇の人のため、差別の連鎖を断ち切りたい」と述べている。
市議への殺害予告
「クルド人差別は許さない」と訴えて川口市議補選で当選した岡本さゆり氏は、2025年5月22日、「5月中に誘拐して刺し殺す。自宅特定済」などと殺害予告のメールを受けた。メールは市のホームページにも送られ、「市役所を爆破する」とあった。岡本氏は「クルド人を擁護するな」「国賊だ」といった批判が増えているとし、殺害予告は差別反対への反発とみている。一方で励ましの声も増えており、「冷静に説明を続けたい」と話す。
川口市の前市長・奥ノ木信夫氏も2024年、X(旧ツイッター)で殺害予告を受け、投稿した岩手県の男が脅迫罪で略式起訴された。鶴ケ島市の福島恵美市議も2023年の初当選後、クルド人差別への抗議を続ける中で殺害予告や中傷に遭っている。福島氏は「差別反対者への攻撃が萎縮を生む。法整備が急務だが、法令があっても声を上げる人がいなければ有名無実化する。議員として、一人の大人として差別はダメだと訴え続ける」と語る。
レイシズムの特徴
ノンフィクションライターの安田浩一氏は「差別者は、当事者全体ではなく、その中でも最も弱く、最もたたきやすい部分を選別して攻撃する。これはレイシズムの特徴であり、最大の問題点だ。マイノリティーであるがゆえに被害も大きくなる」と解説する。差別反対者への攻撃は、在日コリアンらへのヘイトが激化した2010年代以降、繰り返されてきたという。安田氏は「社会的立場の弱い人ほど差別に遭いやすくなっている。何らかの法整備が必要ではないか」と訴えている。



