名古屋市守山区の障害者グループホームで2022年12月、入所者の女性が死亡したのは施設側が適切な措置を怠ったためだったとして、両親がホームの運営会社に約6千万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴した。提訴は3月2日付。衰弱していたにもかかわらず、医療機関を受診させなかったと訴えている。
事件の概要
訴状によると、当時20代の女性は自閉症と強度行動障害があり、2021年4月にホームに入所。2022年12月5日に脱力状態となって救急搬送され、3日後に病院で死亡した。60キロあった体重は43キロにまで減少していた。原告側は「徐々に衰弱し低栄養状態にあったが、必要な栄養摂取をさせなかった」と主張している。
強度行動障害とは
強度行動障害は、自分や他人を傷つけたり、物を壊したりする激しい行動が繰り返し現れる状態を指す。重い知的障害を伴う自閉症の人に多く、後天的に生じる。感覚過敏や特定のこだわりがあり、周囲がうまく対応できなかったり、生活環境が合わなかったりして強い不安やストレスを感じることが要因とされる。支援には専門性が必要で、対応できる施設や事業所は限られている。
両親の悲痛な思い
両親によると、女性は普段は簡単な会話ができたが、パニックになって母親を骨折させたり、徘徊して30キロ離れた場所で見つかったりしたことがあった。「いずれ一緒に生活できなくなる」と考え、入居施設を探したが何カ所も断られた。2021年春、利用していた通所施設の運営会社がグループホームを開設。「すぐに埋まる」と聞き、両親は娘を託した。通所施設では食事を制限されたり、娘をスタッフが強引に押さえつけたりする様子を目撃したこともあったが、何も言えなかったという。
病院での衝撃
病院で対面した娘は意識がない状態で、顔には複数のあざがあり、腰の骨も折れていた。入所していた1年半でやせ細り、十分に食事をとらせてもらえていなかった。父親は「利益追求のための福祉になっていなかったか。娘の無念を晴らしたい」と語る。
行政の対応と課題
同施設を巡っては、名古屋市が2024年1月、この女性への虐待行為を認定。1カ月間の新規利用者の受け入れ停止とする行政処分を出した。医療機関への受診を支援せず、排せつなどの介助を最大5日間ほどしなかったことを虐待と認定したが、死亡との因果関係は認めなかった。
強度行動障害は、原因となる騒音や物を特定して生活環境を整えれば、問題行動を和らげることができるとされる。名古屋市は2018年から、こうした分析や助言ができる専門支援員を施設に派遣する事業を行っているが、市の担当者は「対応に苦慮している事業所は今もある」と話す。市内の障害者向けグループホームは2021年時点で231カ所だったが、2026年には381カ所にまで急増。このうち営利法人が運営する事業所は100カ所から219カ所に倍増している。民間企業の参入は、国が障害者の生活拠点の「地域移行」を推進してきた結果だが、厚生労働省の審議会でも専門家から質の低下が指摘されている。
運営会社は取材に「裁判が始まっており、回答は控える」と答えた。



