自然豊かな丘陵地に佇む禅寺は、NPO法人「自殺防止ネットワーク風」の本部でもある。千葉県成田市にある長寿院では、「老後資金を全部取られた。恥ずかしくて…。もう死にます」という詐欺被害者からの悲痛な相談が後を絶たない。
被害者が抱える自責の念
住職で法人代表の篠原鋭一(81)によると、詐欺被害者は強い自責の念に苛まれ、家族や周囲からも責められることが多い。中には自死を選んだケースも複数確認されているという。
ある80代の男性は3年前、銀行員の孫を装った電話で300万円を騙し取られた。家族に「なぜ相談しなかったのか」と問い詰められ、「ばかなことをした。死にたい」と塞ぎ込んでしまった。
被害者を責める社会の風潮
社会心理学者で南山大学准教授の土屋耕治(43)は、「犯罪被害に遭うと、自分に非があったと考える傾向がある」と指摘する。例えば夜道でひったくりに遭えば「この道を選んだ自分が悪い」と考える。これは「行動を改めれば今後は大丈夫」と思い込み、再び犯罪に巻き込まれる現実から目を背けるための本能的な反応だという。
特に詐欺の場合、被害者自身がお金を振り込んだり手渡したりする行動を伴うため、「自他ともに被害者を責める風潮が強くなりやすい」。還付金や投資を装った詐欺に遭えば「欲があった」と見なされ、「弱くて守らなければならない『良い被害者』」の枠から外されてしまう。
恥ずかしさが加害者を利する
詐欺被害への負の意識は、加害者を利することにもつながる。中部地方の男性はSNSの投資広告をクリックしたことから3600万円を騙し取られた。加害者側とのやり取りで何度か詐欺を疑ったが、「恥ずかしくて誰にも相談できなかった」と悔やむ。通報は遅れ、送金は10回に及んだ。
羞恥心の本質
羞恥心を研究してきた聖心女子大学教授の菅原健介(67)は、「羞恥心はサバイバル戦略」だと説明する。肉食獣と比べて個の身体能力が低い人間にとって、かつて集団からの排斥は死を意味した。ルールを外れたり仲間に非難されそうになったりした際に危機を知らせる「警報装置」が羞恥心の正体だという。
詐欺は日本に限った問題ではなく、恥の感情も人間共通だが、「特に日本人は『みんなと違う』ことに敏感」だと菅原は指摘する。農村社会や終身雇用の企業など、人間関係が固定化されやすい集団で生きてきた歴史に由来し、「詐欺に遭ったときも周りに知られたくないという気持ちが強くなりやすい」と分析する。
恥に負けてはいけない
「恥との付き合い方は難しい」と菅原。自分のイメージを守り社会で生きていく上で欠かせない感情だが、「詐欺に関して言えば、恥ずかしいという感情に負けてはいけない」と強調する。「万人が引っかかる可能性があるのだから」と警鐘を鳴らす。
篠原は詐欺被害者やその家族から相談を受けると、決まってこう諭してきた。「責められるべきは騙す側で、騙された側ではない」。しかし、それを理解してもらうのが一番難しいと実感している。



