大切な家族を失い深い悲しみに陥った自死遺族が、外に出て一歩を踏み出すきっかけをつくろうと、岐阜市の大学生でベリーダンサーの片桐シューレさん(19)=ダンサー名=が、自身の公演に遺族を無料招待している。自身も半年前、姉を自死で亡くした自死遺族だ。いまだ癒えない悲しみと向き合いながら、自分にできることで寄り添い、前を向こうとしている。
姉の死と向き合う日々
片桐さんは岐阜市内のアパートで母親(48)と姉の3人で暮らしていた。おとなしい性格だった姉は昨年10月、「1人暮らしをしたい」と自ら借りていた市内の集合住宅の一室で遺体で見つかった。28歳だった。姉の部屋からは書き置きが見つかったが、亡くなった理由は明確になっていない。
姉が抱えていた苦悩に気付けず、日増しに募る後悔。姉に似た人を見かけるとつらくなった。外出する気になれず、大学をやめることも考えた。そんなとき、友人たちが誘い出してくれた。「学校に来るの、待ってるね」。そう声をかけられると、外に出てみようと思えた。少しずつ普段の日常を取り戻せるようになった。
ベリーダンスでできること
交流サイト(SNS)で母親がやりとりしていた自死遺族も、同じ苦悩を抱えていた。友人が誘い出してくれたように、小さなきっかけがあれば前を向ける――。「自分にできること」として思い立ったのが、自身のベリーダンスの公演に自死遺族を無料で招くことだった。
母親の影響で小学5年のときに始めたベリーダンスは、姉にほめられた「自分を前向きにさせてくれる」特技だ。落ち込んでいても、踊れば気持ちが軽くなった。公演に向けて母親と準備を進め、会場は遺族の心情に配慮して人の多い場所を避けた。師事するダンサーや雅楽奏者は趣旨に賛同し、無償で出演を引き受けてくれた。
初公演と反響
今年1月に名古屋市内の舞踏場で開いた初公演。SNSで参加を呼びかけた観客の中には、自死遺族2人の姿もあった。帰らない人への追慕と慰霊の念が込められた舞に、涙を拭う人もいた。「外に出て人と話すことで、気持ちも少しずつ前向きに変わっていく」と片桐さん。公演を通じ、「つらくて落ち込んでいる人が、一歩を踏み出すきっかけになってくれれば」と願う。
3月下旬には岐阜市内で公演を実施し、次回は5月3日、名古屋市瑞穂区の東山荘で開く。申し込みは片桐さんが母親と立ち上げた任意団体「フェーズ・アール」のメールアドレスまで。自死遺族だけでなく、さまざまな理由で落ち込み、家に閉じこもりがちな人にも見に来てほしいという。
専門家の見解
長年にわたり自死遺族の自助グループづくりを後押ししてきた一般社団法人全国自死遺族連絡会の田中幸子代表理事(77)は、長男を自死で亡くした。「遺書があったとしても、自死遺族は故人が亡くなった理由が分からない場合がほとんど」と話す。自死遺族は自責の念にさいなまれる中、自死を特別視する社会の風潮がさらに苦しみとしてのしかかるという。親族からの叱責を恐れ「99%の遺族が自死遺族であることを隠す」といい、一人で抱え込む傾向が強い。
遺族には「たくさん涙を流し、たくさん話をして時間をかけて悲しみと折り合いをつける必要がある」と強調し、自死遺族同士の助け合いの重要性を説く。今では全国に自助グループが立ち上がっているが、「支え合いの形はさまざまあっていい。SNSなど、当事者同士がつながる機会は増えている。自分と同じ境遇の人がいると思うだけでも支えになる」と指摘する。



