人生、何が起こるか予測できない。けがや病気、障害、失業、家族の介護――。こうした困難に直面したとき、どのような支援制度を利用できるのか。10代のうちにその知識を身につけてもらおうと、NPO法人「Social Change Agency」(東京都台東区)が開発したのが、カードゲーム「社会保障ゲーム」だ。
主人公「ゴロウ」の設定はリアルそのもの
「まずはキャラクターを1枚選んでください」。NPO法人の代表理事で社会福祉士の横山北斗さん(41)が、3グループに分かれた参加者10人に呼びかけた。4月8日夜、都内で開かれた大人向け体験会に記者も参加した。キャラクターは10代から20代までの男女12人の中から1人を選ぶ。
記者が参加したグループは、富山県で一人暮らしをする19歳の私立大2年生「ゴロウ」を主人公に選んだ。愛媛県に住む両親は経済的に余裕がなく、仕送りはゼロ。塾講師と居酒屋のアルバイトを掛け持ちし、奨学金とバイト代で生活している。カードには細かい設定が記され、どんな人物か想像しやすい。
「両親は零細みかん農家」と記者が言うと、グループの看護師、浦山絵里さん(65)が「なんかリアル」と応じ、話が進む。親が好きではない理由は「一人っ子で後継ぎ問題がある」という設定も追加された。
5分間で30近くの困りごと
次に選ぶのは「ピンチカード」。18枚の中から3枚を引く。「家族の精神疾患」「バイト先でのハラスメント」「仕事がなくなった」。一つでも大変なのに、同時に直面したと想定し、具体的に起きる「困り事」を付箋に書き出す。
「給料未払いで生活が困る」「家賃を払えない」「学校に通い続けられるのか」。5分ほどの間に、4人が書いた困り事は30近くに。「ゴロウ、かわいそう…」と声が漏れた。
「でも、現実にあり得ますよ」と困窮者支援のNPO法人トイミッケ(東京都豊島区)の佐々木大志郎さん(47)。現場を駆け回るプロからすれば、「ゴロウ」は決して珍しくないという。
アイテムカードで制度を知る
似ている困り事をまとめ、「アイテムカード」を引く。54枚あり、相談窓口や福祉の制度が書かれていて、どの困り事の解決につながるかを考える。生活保護や社会福祉協議会(社協)はなじみがあるが、家賃を支援する「住居確保給付金」を記者は初めて知った。
架空の人物が助かる方法を、1時間半も考える機会はそうない。同じグループでNPO法人ブリッジフォースマイル(東京都港区)の松尾扇衣さん(31)は「支援する児童養護施設で暮らす子どもたちが、就職などで社会に出る前に知っておいてほしい内容でした」と、活用に前向きだった。
横山さんによると、ゲームは10年前から仲間たちと構想し、試作を重ねて昨年6月に完成。既に50以上の中学や高校で体験してもらった。「社協などがゲームの進行役を担い、若者と地域の支援者がつながりやすくなれば」と期待する。
日本で福祉サービスを受けるには、本人や家族が役所などの窓口で申請しなければならない。まず制度を知らなければ、受けられるはずのサービスを逃しかねない。「15歳からの社会保障」という本も書いた横山さんは、だからこそ強調する。「知っているということが、力になるんです」
ゲームの購入方法
社会保障ゲームの購入申し込みは5月1日まで、次回は今年秋ごろを予定。お試し1セットは1万4800円。すでに120を超える個人や団体から注文がある。購入は、「社会保障ゲーム 受注生産サイト」から。



