子どもに性暴力を加えたとして、父親が摘発され、刑事責任を問われる事件が相次いでいる。近年の刑法改正により、暴行や脅迫がなくても罪が成立するようになり、警察が摘発に乗り出しやすくなったことが背景にある。公判では、家庭内で繰り返された深刻な被害の実態が浮かび上がっている。
誰にも相談できずに
2024年から2025年にかけて、娘2人(ともに10歳代)に性的暴行を加えたとして、不同意性交と監護者性交罪に問われた父親に対し、福岡地裁は2026年1月、懲役16年の判決を言い渡した。判決は「誰にも相談できずに妊娠させられ、1人は出産、1人は堕胎を余儀なくされた」と被害の深刻さを指摘した。
確定判決によると、姉妹が小学生の頃から胸を触るなどのわいせつ行為が繰り返され、性的暴行は多数回に及んだと認定された。判決は「肉体的、精神的苦痛は計り知れない」と非難した。
福岡県内で2025年6月、娘(10歳代)に性的暴行を加えたとして不同意性交罪に問われた父親の公判では、検察側が小学6年頃から性的暴行が繰り返されたと主張。娘の調書によると、家族が寝静まった後を狙われ、「やめて」と訴えても行為に及んだという。父親は起訴事実を認め、地裁は2025年11月に拘禁刑8年の判決を言い渡した。判決は性的暴行が約4年間に及んだと認定し、「性欲のはけ口として性的暴行を繰り返した」と断じた。判決はその後確定した。
刑法改正で摘発増加
警察庁によると、監護者性交や不同意性交(旧強制性交など含む)容疑で親族が摘発された事件は、2023年が249件、2024年が301件、2025年は5年前の約1.7倍の340件に上った。2024年の301件のうち、実子や養子が被害者となったケースが195件を占めた。
摘発増加の背景には刑法改正の動きがある。2017年施行の改正刑法で監護者性交罪が新設され、親などがその影響力に乗じて18歳未満の子どもに性交等をした場合、暴行や脅迫がなくても罪に問われるようになった。また、2023年施行の改正刑法では、強制性交罪の名称が不同意性交罪に変更。虐待や経済的・社会的関係上の地位の影響などから、被害者が不同意の意思を表明できない場合でも成立するほか、年長者が16歳未満に対して性交等すると処罰されるようになった。
元福岡県警本部長で京都産業大の岡部正勝教授(社会安全政策)は「強制性交罪など従来の規定では暴行や脅迫の厳密な立証が必要で、親子間の事件の立件は容易ではなかった」と指摘する。ある捜査幹部によると、改正前は暴行・脅迫のほか、被害者の明確な拒否を示す証拠などがなければ摘発が難しく、被害者が泣き寝入りせざるを得ないケースも多かったが、現在は成立要件が明確化され、摘発のハードルが下がったという。同幹部は「家庭内の性被害が潜在化しやすいことに変わりはない。被害を訴えやすい環境を社会で整えることが重要だ」と指摘する。
SOSのサインに気づいて
追手門学院大の桜井鼓教授(犯罪心理学)によると、家庭内で起きる子どもの性被害は、「お風呂で体を触る」といった性的な目的と気付きにくい行為から徐々にエスカレートする傾向があり、被害に気づかず繰り返されるケースが多いという。また、被害を自覚しても、経済的に扶養されている関係性や家庭内の平穏維持を考慮し、被害を打ち明けるのをためらう心理になりやすいという。
桜井教授は「体調不良のほか、食欲不振や過食、遅刻の増加など、子どもにいつもと違う様子があれば、SOSのサインかもしれない。そのサインに周囲が気づけるかが被害を早期に把握できるかどうかのポイントだ」と述べた。
性被害の主な相談窓口
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター「#8891」
- 性犯罪被害相談電話「#8103」(最寄りの警察の性犯罪被害相談窓口につながる)
- 児童相談所虐待対応ダイヤル「189」



