札幌市が管理する札幌駅前通地下歩行空間(チカホ)で、アイヌ民族を侮蔑する内容のパネル展が開催された問題をめぐり、市が設置した第三者機関の構成にアイヌ民族が含まれていないとして、「国際人権法違反」との批判が強まっている。この機関は、問題の再発防止策を議論するために設けられたが、その構成員は憲法や法律の専門家、弁護士の計5人で、アイヌ民族は一人もいない。
アイヌ民族からの怒りの声
6月1日、札幌市役所で開かれた市のアイヌ施策推進課の職員との意見交換会で、アイヌ民族の葛野次雄さん(72歳、新ひだか町在住)は「アイヌのことを決めるのにアイヌが入らないで、どうしてまともな政策ができるのか。これでは開拓使の時代と何ら変わらないではないか」と語気を強めて批判した。市側は、第三者機関を付属機関「市アイヌ施策推進委員会」の専門部会として設置したが、葛野さんが「なぜアイヌを入れないのか」と問い詰めると、同課の担当者は「議論は専門的で高度になる。客観性や中立性の観点から、実務に精通した方々などを人選した」と答えた。しかし、集まったアイヌ民族らと市側の話し合いはかみ合わず、溝が埋まらなかった。
専門家の見解:国際人権基準に反する
国内外の先住民族政策に詳しい室蘭工業大学の丸山博名誉教授は、市の対応を「国際人権基準の原則に反しており、到底容認できるものではない」と強く批判する。あらゆる差別を禁じた人種差別撤廃条約などでは、先住民族に対して「自由で、事前の、十分な情報に基づいた同意(FPIC)」を保障している。丸山氏は、FPICについて「マジョリティー(多数派)社会による一方的な決定に対する歯止めとして、先住民族の自己決定権を具現化した原則」と説明する。2007年に日本政府も賛成して採択された国連先住民族権利宣言では、FPICが適用される例として「立法上または行政上の措置の採択および実施」を挙げている。丸山氏は「FPICによってアイヌの自己決定権を保障するには、構成員の過半数はアイヌ民族とするべきであり、それはアイヌ民族が被ってきた歴史的不正義の負の遺産を是正することからも要請される」と指摘する。
アイヌ民族の訴えと研究者グループの意見書
市への抗議後、会見に臨んだアイヌ民族の山下明美さん(76歳、札幌市在住)は「私たちが訴えてきたことの成果がこれ。またチカホで差別展が開かれるのではと心配しています」と懸念を表明した。一方、中央大学法科大学院の小坂田裕子教授(国際人権法)ら5人の専門家でつくる研究グループは、専門部会の設置に先立つ5月25日、市に対して意見書を提出。公的施設の運用は国際人権法に適合させること、差別を助長しない明確な指針をつくることなどを求めていた。市は専門部会で論点整理や参考人のヒアリングを行った上で、年度内のガイドライン策定を目指すとしている。



