国会における首相や閣僚の答弁は、日々新たに生じる課題への対応方針や国の針路を表明する重要な場である。単なる政策説明にとどまらず、新しい政策決定そのものであり、創造的な行為と言える。その意味で、答弁案の作成に生成AI(人工知能)を用いるという政府の方針には、驚きを禁じ得ない。
政府の生成AI活用方針
政府は答弁案作成のほか、様々な業務に生成AIを活用する方針を打ち出している。デジタル庁が開発したシステム「源内」を中央省庁の計18万人に認める大規模実証事業を開始し、答弁案作成も主要な業務の一つとされている。
答弁案作成の現状とAI活用の是非
長年、答弁案作成は官僚の長時間勤務の要因となってきた。法令や統計情報の調査、膨大な過去答弁との整合性チェックが必要だからだ。こうしたデータ収集や点検を生成AIに任せ、効率化することには異論はない。時間的余裕を新たな政策形成の議論に充てることは有意義だろう。
しかし、生成AIはインターネット上の既存情報を学習した結果に基づき文章を出力する仕組みに過ぎない。これに対し答弁は、過去答弁の説明だけでなく、新たな課題について国民生活への配慮、様々な利害関係、国益などを総合的に判断して練り上げる必要がある。
答弁に求められる微妙なニュアンス
過去答弁には、外交問題のように言外の微妙なニュアンスが込められ、同じ言葉でも状況によって異なる意味を持つことがある。例えば1972年、大平正芳外相は中国と台湾の関係に関し、「平和的に解決することを希望する。武力紛争に発展する可能性はないと考える」と答弁した。これは、「台湾が中国の領土の不可分の一部」という中国の主張を日本が理解し尊重するのは、あくまで平和的解決が前提であるという意味を含んでいる。
こうした判断を生成AIに任せることは不可能である。政府は政策的判断などは人が行うとしているが、データ作成ではなく答弁案の作成まで生成AIに任せれば、AIの影響を受けないとは言えない。
負担軽減の本質的な解決策
そもそも、答弁に関する官僚の負担軽減は、議員が質問を通告する時間を早めることで実現すべきだ。答弁側が生成AIを多用すれば、質問側もいずれ生成AIに頼ることになる。そうなれば省庁や国会の不要論を招きかねない。答弁の本質を軽視したAI活用は、国会の機能そのものを損なう危険性がある。



