SNSを通じて近寄ってきた詐欺犯に、女性はなぜここまで心をコントロールされてしまったのか。社会心理学が専門で、詐欺の手口を分析している日本大学の木村敦教授は「段階的に信頼関係を築くグルーミング(手なずけ)プロセスが効果的に使われている。途中で抜け出すのは難しい」と指摘する。
いわゆる「オレオレ詐欺」のような特殊詐欺は短時間で被害者を動揺させるのに対し、ロマンス詐欺の場合、最初にお金の話を一切出さず、1~数カ月と長い時間をかけて関係をつくる特徴がある。世間話から始めて接触回数を増やし、悩み相談など深い話題に移っていく。さらに秘密を共有することで、被害者を囲い込んでいくという。
木村教授は、このグルーミングプロセスが非常に巧妙で、被害者が途中で違和感を覚えても、すでに築かれた信頼関係や感情的な絆のために抜け出せなくなるケースが多いと説明する。特に、詐欺犯は「あなただけを信頼している」というメッセージを繰り返し送ることで、被害者の自己肯定感を高め、依存を強める。
グルーミングの段階と心理操作
グルーミングは通常、以下のような段階を経て進行する。
- 第一段階:ターゲットの選定と接触 詐欺犯はSNSやマッチングアプリで、孤独感や金銭的な不安を抱える人を狙う。最初は共通の趣味や関心事を通じて自然な形で接触する。
- 第二段階:信頼の構築 毎日のメッセージのやり取りや、電話・ビデオ通話を通じて、相手の生活や悩みに共感するふりをする。この段階では金銭の話は一切出ない。
- 第三段階:秘密の共有と囲い込み 詐欺犯は自身の「悲しい過去」や「秘密」を打ち明けることで、被害者に同じように秘密を共有させる。これにより、二人だけの特別な関係が築かれたと錯覚させる。
- 第四段階:金銭要求 十分な信頼関係ができたと判断すると、突然「緊急の医療費が必要」「投資で儲かる話がある」などと金銭を要求する。この時点で被害者は断ることが極めて難しくなる。
木村教授は「グルーミングは一種の洗脳に近い。被害者は自分が騙されていると気づいても、相手を信じたい気持ちや、これまでの時間を無駄にしたくないという心理から、疑うことをやめてしまう」と警鐘を鳴らす。
AIが加速するロマンス詐欺の脅威
近年、生成AIの進化により、ロマンス詐欺の手口はさらに巧妙化している。木村教授は「AIはグルーミングのコストを大幅に下げる。これまで一人の詐欺犯が同時に相手にできる被害者は限られていたが、AIを活用すれば、複数の被害者と同時に、より自然な会話を継続できる」と指摘する。
具体的には、AIチャットボットが被害者とのメッセージのやり取りを代行し、感情分析に基づいて最適な返信を自動生成する。また、ディープフェイク技術を使い、リアルタイムで偽の映像や音声を作成することも可能だ。これにより、被害者は相手を本物の人間だと信じ込みやすくなる。
さらに、AIは被害者のSNSの投稿や行動パターンを分析し、個々の心理的弱点を突くカスタマイズされたアプローチができる。例えば、孤独を感じている人には「あなただけが私の理解者だ」とメッセージを送り、経済的に不安な人には「楽に稼げる方法を教える」と誘う。
滋賀大学の島田貴仁教授(犯罪予防・環境心理学)も、この問題を深刻に捉える。島田教授は「ロマンス詐欺の核心はグルーミング、つまり関係構築にある。雑談、相談、秘密の共有を重ね、心理的な距離を詰めてから犯行に及ぶ。この点は、児童の自撮り被害や福祉犯被害とも重なる。生成AIはこの関係構築のコストを大きく下げるため、今後さらに被害が拡大する恐れがある」と警告する。
被害を防ぐためにできること
専門家は、以下の点に注意するよう呼びかけている。
- オンラインでの関係構築に警戒を 知り合って間もない相手から、すぐに親密な関係を求められたり、秘密を共有するよう促されたりした場合は、詐欺を疑う。
- 金銭の要求は危険信号 どんな理由であれ、会ったことのない相手に金銭を送ることは絶対にしない。
- 第三者に相談する 怪しいと感じたら、家族や友人、警察に相談する。孤独な状況ほど、詐欺犯のターゲットになりやすい。
- AI技術のリスクを理解する 相手の声や映像が本物かどうか、常に疑問を持つ。特に、AIで生成された可能性がある不自然な言動に注意する。
ロマンス詐欺は、金銭的な被害だけでなく、精神的なダメージも大きい。木村教授は「被害者は自分を責めがちだが、決して被害者のせいではない。巧妙な心理操作の結果だ」と強調する。AI時代を迎え、詐欺の手口はますます進化する。一人ひとりが正しい知識を持ち、被害を未然に防ぐことが重要だ。



