連載「深流Ⅺ 控訴審に問われるもの」の初回では、山上徹也被告(45)が一審判決後に記者と面会した際に発した、極めて印象的な言葉に焦点を当てる。
「虐待と思いたくない」という心情
山上被告は記者に対し、「虐待を受けていたとは、思いたくないんですよね」と語った。弁護団は被告を「宗教がかかわる児童虐待の被害者」と位置づけていたが、本人の認識はそれとは異なるようだ。
精神科医の見解
虐待問題に詳しい精神科医の藤林武史氏(67)は、被告の生い立ちについて「一般の人がイメージする『虐待』とはずれている気がする」と指摘。その上で、適切な対処を考えるなら「ACE(Adverse Childhood Experiences、小児期の逆境体験)」として捉えるべきだったと述べた。
ACEは「虐待だけでない、子どもにとって非常につらい、怖い体験」を指し、近年の研究では、こうした体験が重なるほど、人はネガティブな考えを持ちやすくなり、孤立し、追い詰められることが明らかになっている。
ACE研究の専門家に聞く
取材班は、ACE研究に詳しい大阪大学大学院人間科学研究科の三谷はるよ准教授(40)を訪ねた。その研究は1990年代に始まり、現在では世界中で逆境体験とその後の健康や社会適応との関連が調査されている。
三谷准教授は、山上被告のケースについて、複数の逆境体験が重なった結果、社会的孤立や精神的な追い詰められ方が生じた可能性を指摘。また、「虐待」という言葉の持つイメージが、本人の自己認識や周囲の理解を歪めることもあると述べた。
控訴審への示唆
本連載では、控訴審において被告の生育環境や心理状態がどのように評価されるべきか、多角的に検討する。山上被告の「虐待と思いたくない」という言葉は、単なる否認ではなく、複雑なトラウマ反応の一端を示している可能性がある。ACEの概念を通じて、被告の行動の背景をより深く理解することが、今後の裁判の行方に影響を与えるかもしれない。
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