日常に潜む不自由の芽、姿変え今も 朝日新聞連載286回をたどる
日常に潜む不自由の芽、姿変え今も 朝日新聞連載286回

朝日新聞の連載「『みる・きく・はなす』はいま」は、1987年10月の新聞週間に始まり、2024年までに50部、全286回を数える長期連載である。この連載は、自由な言論を阻む要素が日常生活に潜んでいるのではないかという問題意識に基づき、記者が自ら現場を訪ねて調査してきた。時代の変化に応じて、萎縮をもたらす芽はその姿を変えながらも、根強く残存していることを伝えてきた。

連載初期の焦点:皇室とタブー

連載が始まった1980年代後半は、皇室に関するテーマが多く取り上げられた。昭和天皇が1989年1月に崩御した後、百貨店から結婚式場、東京ディズニーランドに至るまで、さまざまな活動が自粛される風潮が広がった。昭和天皇の戦争責任に言及した市長は脅迫電話に悩まされ、学者の家には「不敬言動審査会」を名乗る男が訪れるといった事例が報告された。第3部「『制』の社会学」では、こうした事例から「タブー化」のメカニズムを描き出した。

平成時代の新たな課題:外国人差別とナショナリズム

平成に移行し、1990年には外国人登録者数が100万人を突破した。これと呼応するかのように、排外的な動きが表面化した。第9部「隣人たちの沈黙」では、こうした動きを捉えた。アジア蔑視に基づくヘイトスピーチなどの外国人差別は、日本の経済的地位が相対的に低下する2010年代に深刻化し、第35部「扇動社会」、第38部「敵がいる」、第39部「排除の理由」などで頻繁に取り上げられた。

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ナショナリズムの高まり

2000年前後にはナショナリズムが高まった。1999年に国旗・国歌法が成立し、2006年には「我が国と郷土を愛する」という文言が盛り込まれた改正教育基本法が成立した。第28部「『愛国』の陰で」は、通知表に「愛国心」の評価項目を設けた小学校を、第30部「統制の足音」は、小学生に君が代斉唱を熱心に指導する校長の姿を取り上げた。

政権批判への圧力

東日本大震災後、民主党政権を倒して2012年に第2次安倍政権が誕生してからは、政権の方針と異なる動きが標的となる事例が目立った。第41部「話そかな、」では、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法を授業で扱った高校(生徒の討論では反対多数)を自民県議が議会で問題視した出来事や、憲法行事の開催を避ける自治体を紹介。第43部「発した先に」では、政権に批判的な元文部科学次官を講演に招いた市立中学校に対し、文科省が市教委を追及した問題を深掘りした。

インターネット時代の言論環境

インターネットやスマートフォン、SNSなどの通信技術や機器の発展により、言論環境そのものが大きく変化した。連載当初の言論攻撃は、中傷のはがきやビラ、嫌がらせの電話が主流だった。しかし、「ウィンドウズ95」日本語版の発売後、インターネットが普及すると、匿名性を背景にした書き込みが増加した。同時に個人情報の管理が厳格化され、第27部「個人情報のゆくえ」ではその功罪を伝えている。

2008年にTwitter(現X)の日本語版サービスが開始され、個人の発信力が高まった近年では、真偽の怪しい情報に翻弄される事例が相次いでいる。第45部「許せない 許さない」では、ある居酒屋で新型コロナウイルスの感染者が出たとする虚偽情報がTwitterで拡散した事例を紹介した。

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連載の原点:阪神支局襲撃事件

1987年5月3日、朝日新聞阪神支局に男が侵入し、散弾銃を発砲、小尻知博記者(当時29)ら2人が殺傷された。犯行声明には「反日朝日は五十年前にかえれ」と記され、その後も「赤報隊」を名乗る者による事件が続いた。この襲撃事件への答えとして、朝日新聞は連載「『みる・きく・はなす』はいま」を開始した。自由にものが言えない戦前に決して戻らないという決意のもと、報道の役割を問い続けている。2023年4月30日の朝日新聞紙面では、47部にわたる連載を振り返り、当時の大阪社会部長の視点も交えて再配信された。