性売買の変遷と現代の課題
1990年代に社会問題化した「援助交際」や「ブルセラ」は、名称を「JKビジネス」「パパ活」と変えながら、現在も継続している。女子高校生が金銭と引き換えに性行為を行ったり下着を販売したりする行為の根底には、長年にわたる社会的な構図が存在する。
上野千鶴子氏の分析と問題提起
社会学者の上野千鶴子氏は、この30年間にわたり「『セックスというお仕事』の困惑 商業化が進む中の人権」など多くの論考を発表してきた。氏は現代の性売買について、女性の性搾取が「パパ活」のように女性自身の意思で好んで行っているかのような名称で呼ばれる源流を指摘する。
「援助交際もパパ活も男を免責するうまい言い回しよね。実態は少女買春なのに」と上野氏は語る。この表現は、問題の本質を曖昧にし、加害者側の責任を免れさせる機能を持っていると批判する。
性の商品化と「セックスワーク」概念の広がり
性行為をサービスとして金銭と交換可能とみなす「性の商品化」の是非をめぐる論争は1980年代から存在した。市場経済の拡大の中で、「女性が性を売るのは主体的な選択だ」「資本主義市場では何もかもが商品になる」という主張が強まり、歯止めがきかない状況が生まれた。
さらに「性を売ることはサービス労働だ」と捉える「セックスワーク」という概念が登場し、この流れに拍車をかけた。売る側に合意がある限り問題ないとする考え方が広がった結果、根本的な人権問題が看過される傾向が強まった。
社会の変化と貧困の深化
しかしそれから40年が経過し、日本社会は大きく変容した。経済的な貧困や社会的孤立、過去の性暴力経験など、複合的な要因が女性たちを性売買へと追い込む構造がより深刻化している。
上野氏は、女性の「選択」や「自己決定」という言葉が、実際には限られた選択肢の中で強いられた決断である場合が多い現実を強調する。福祉制度が十分に機能せず、風俗産業に依存せざるを得ない状況が、多くの女性たちを苦しめている。
売春防止法改正をめぐる議論
売春防止法の見直しをめぐっては、「買う側」の処罰に賛否両論がある。従来の廃止主義とは異なり、男性の買春行為に焦点を当てた「新廃止主義(ネオアボリショニズム)」と呼ばれる潮流も21世紀初頭から存在する。
フランスでは買春した客を処罰する法律が施行され、「恥ずべきは客である」という社会の価値観転換が起きている。これに対し日本では依然として「買ってもセーフ」という認識が根強く、法改正を求める声が高まっている。
上野千鶴子氏の分析は、単なる道徳論を超え、経済的困窮や社会的圧力の中で「選択」の名の下に行われる性売買の実態を浮き彫りにする。福祉が風俗に勝てない現実と、それが真に女性の自由な選択と言えるのかという根本的な問いが、現代社会に突きつけられている。



