厳しい家計と医療格差…中絶を悩むベトナムの家族、口唇口蓋裂の子が祝福されて生まれるために
厳しい家計と医療格差…中絶を悩むベトナムの家族

厳しい家計、医療格差…中絶を悩むベトナムの家族

NPO法人・日本口唇口蓋裂協会(名古屋市千種区)のベトナム診療隊は、今年3月21日から29日まで、ビンロン省のグエンディンチュー病院で9日間の医療支援を行った。手術を終えて眠る3カ月の息子にほおずりしながら、母親のレ・ティベ・チャンさん(31)は「成功して良かった」とほっとした表情を浮かべた。

妊娠中の出生前診断で息子の口唇口蓋裂が判明すると、夫の家族から中絶を求められた。夫婦で果物を栽培しているが、家計は厳しい。「どうしても産みたかった。治療費がなくて心配だったけれど、無償で手術してくれる日本人が来てくれて感謝している」と涙ぐんだ。

出生前診断の進歩と中絶の増加

ベトナムでは近年、出生前診断の技術が進歩し、先天的な疾患のある新生児の出生率が低下している。口唇口蓋裂と分かると、医療体制の不備や「治らない」という誤解から、中絶を選ぶ親が後を絶たない。

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出産しても、患者と家族には都市と地方の医療格差が立ちはだかる。都市部は急速な経済発展を遂げる一方、地方は十分な医療体制が整わず、医師も不足している。周辺地域で唯一、口唇口蓋裂の治療が可能なグエンディチュー病院では、口腔外科医のトラン・リー・ユイさん(41)が1人で治療に当たる。

専門医の孤独な戦い

トランさんは2015年から4年間、愛知学院大歯学部(名古屋市千種区)に留学し、手術の経験を積んだ。しかし、母国に戻った5年余りで実施した手術は約20件にとどまる。新型コロナウイルス感染拡大前と比べ、受診する患者は半減した。「経済的に余裕のある家庭は、都市部の総合病院を選ぶ。地方の患者は、専門的な治療を長期的に受けることが難しい」と話す。

この地域の1カ月の最低賃金は、入院費の半分にも満たない。入院中の薬代や食事代、交通費は別にかかり、貧困家庭にとって受診のハードルは高い。日本口唇口蓋裂協会の一員でもあるトランさんは、患者に協会の来訪を待って手術を受けることも選択肢の一つだとアドバイスしている。

少額融資で支援拡充

協会は経済的な事情で治療を躊躇する家庭を支援しようと、1997年から少額融資(マイクロクレジット)を続けている。実務を担うビンロン省婦人連合協会によると、月0.7%程度の低金利で貸し付け、これまで1200人以上が利用した。この29年間で基金を当初の1.5倍超の8億ベトナムドン(約480万円)まで増資し、支援を拡充している。

中絶をなくす新たな仕組み

協会は、口唇口蓋裂の子の中絶をなくそうと、診療隊の治療を受けた家庭が増額融資を受けられる仕組みに今春から変えることを決めた。常務理事の夏目長門さん(69)は「生まれてきて良かったと思える子どもが増えるようサポートしたい」と語る。視線の先には、手術を無事に終えて喜ぶ親子の姿があった。

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