2026年6月から診療報酬が改定され、全国の赤字病院の経営改善が期待されている。しかし、それだけでは医師不足や診療科の偏在といった課題解決には不十分だ。2016年に過疎地域の公立3病院を統合・再編し、10年が経過した南奈良総合医療センター(奈良県大淀町、232床)の事例から、持続可能な医療提供体制のヒントを探る。
再編の背景と経緯
同センターは、葛城山や金剛山の稜線が望める自然豊かな場所に位置し、屋上には県のドクターヘリが常駐。奈良県南部で県面積の3分の2を占める「南和医療圏」の急性期救急患者を一手に引き受けている。同医療圏には他に、五條市と吉野町に回復期・療養期を担う病院があり、三位一体で患者を診療している。
再編前の3病院(町立大淀、県立五條、国保吉野)は、それぞれ急性期患者を受け入れていたが、患者減少と赤字が続き、医師確保も困難に。救急体制が不十分で、圏外への患者流出率は約60%に達した。2006年8月には町立大淀病院で、出産時に脳出血で意識不明となった妊婦が約20病院に受け入れを断られ死亡する痛ましい事件が発生した。
急性期集約と機能分担
この状況を改善するため、2010年に県と関係12市町村が協議会を設置。議論を重ね、2016年4月に「南和広域医療企業団」を設立し、3病院を傘下に置き、現在の「急性期1、回復・療養期2」の機能分担を実現した。
南奈良総合医療センターの小畠康宣院長(59)は、大淀町近くの下市町出身で、地域事情を熟知。「医療資源の集約・再編が必要だった」と振り返る。統合当初は軋轢もあったが、前院長のリーダーシップでチームとしてまとまった。遠方の住民からは不満の声も上がったが、「24時間365日、救急患者を断らない」姿勢を貫き、評価が向上した。
成果と経営改善
開院した2016年度の救急搬送受け入れ件数は4108件で、再編前の3病院合計の約2倍に増加。その後も県平均より10ポイント前後高い救急応需率を維持し、コロナ禍でも85%以上、2025年度には90%を超えた。常勤医師数は2025年度に計99人と再編前の2倍以上となり、若手医師の研修希望も増加している。
「救急を断らない」体制を支えるのは、センターのベッドが満杯にならないよう、五條・吉野の2病院に治療後の患者を転院させる連携システム。3病院は同一の電子カルテを一体運用し、情報共有を徹底。2019年度から黒字経営となり、2025年度には総務省から自治体立優良病院として総務大臣表彰を受けた。
全国への示唆
厚生労働省によると、2024年度は国公立を含む一般病院の約7割が赤字。人件費や資材費の高騰が主因で、2026年6月の診療報酬改定では本体部分が30年ぶりに3%超引き上げられたが、同センターは引き上げ前から黒字を継続している。
小畠院長は、黒字の要因として、電子カルテの一体運用による効率的な病床管理、平均在院日数の短縮、稼働率向上を挙げる。これらにより、医療の質や効率性を評価する「DPC機能評価係数2」で高い評価を得ており、2024年度は全国1526病院中24位、2018年度から上位3%以内に入っている。
最も奏功したのは病院機能の分担と役割の明確化であり、再編前の赤字3病院が企業団として黒字転換した。一方、小畠院長は「利益より住民の命が最も大事。20年前の妊婦問題で信頼は地に落ちた。信頼は一瞬で失うことを医師たちに伝えている」と語る。
高齢化率が全国平均を大きく上回る南和医療圏での10年にわたる改革は、赤字に悩む全国の医療機関、特に人口減少が進む地方病院にとって参考になるだろう。



