身体の不調と向き合う11人の声を記録した伊藤亜紗の新著
伊藤亜紗氏による新著『体の居場所をつくる』(朝日出版社)が刊行された。本書は、摂食障害、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、ナルコレプシー、診断名がつかない身体の不調など、多様な課題を抱える11人へのインタビューをまとめた一冊である。著者は『どもる体』『記憶する体』などの著作で知られ、身体と意識の関係を探求してきた。今回のテーマは「この世界に自分の身体の居場所がない」と感じる人々の実体験に焦点を当てている。
既存の表現を超えるユニークな比喩の数々
本書の特徴は、驚くほどユーモラスで印象的な比喩が随所に散りばめられている点だ。例えば、ALSの当事者が自身を「図体のでかいピノキオ」と表現したり、身体症状症の人が「風にあおられている凧」にたとえたりする。これらの比喩は、既存の医学的表現や日常的な言葉では捉えきれない感覚を伝えようとする試みから生まれている。著者は、インタビュー対象者の言葉を最大限尊重しながら記録することで、それぞれの人生に光を当てている。
回復とは未来に開かれた営み
評者である歌人の大森静佳氏は、自身の過呼吸発作の経験を踏まえ、症状の原因が過去に特定できるとは限らないと指摘する。著者によれば、回復とは単なる症状の軽減ではなく、未来に向かって開かれた継続的なプロセスである。「噛み合わない他者」である身体との対話を通じて、新たな自己との出会いが可能になるという。本書は、そうした対話の現場を豊かな語りで描き出し、読者が呼吸しやすい「もうひとつの時間」を生み出す。
伊藤亜紗氏の筆致は、靱やかで優しく、深い共感に満ちている。11人の語りは、身体の不調に苦しむ人々だけでなく、広く人間の存在そのものを考えるきっかけを提供する。価格は2090円。読書委員の大森静佳氏は1989年生まれの歌人で、角川短歌賞や現代歌人協会賞などを受賞している。



