世界最強の日本馬フォーエバーヤング、米国で歴史的快挙 矢作厩舎の20年越しの夢が結実
日本馬が米国で歴史的快挙 矢作厩舎の20年の夢結実 (21.03.2026)

米国で歴史を切り開いた日本馬の頂点への軌跡

昨年11月1日、米国カリフォルニア州デルマー競馬場で、一頭の日本調教馬が競馬史に新たな1ページを刻んだ。総賞金3400万ドル(約54億円)が動く競馬の祭典「ブリーダーズカップ」のメインレースである「BCクラシック」で、フォーエバーヤングが日本勢として初の優勝を成し遂げたのである。

世界最高峰の舞台での快挙

BCクラシックは、芝の凱旋門賞と双璧を成す世界最高峰のダート競走である。国際競馬統括機関連盟(IFHA)が選定する「世界のトップ100GIレース」では2022年に世界1位に輝いた栄誉あるレースだ。ダート競走の本場である米国では、これまで開催41回のうち39回を米国馬が制しており、外国馬にとっては越えるべき高い壁が立ちはだかっていた。

長時間の空輸による体調管理、異なる馬場への適応など、海外遠征には数多くの困難が伴う。こうしたハードルを乗り越え、歴史的快挙を成し遂げた背景には、調教師・矢作芳人(65)の20年にわたる挑戦があった。

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「無謀」と言われ続けた海外挑戦

矢作調教師はこの快挙を「サッカー日本代表がワールドカップで優勝したようなもの」と表現する。2005年に滋賀県栗東市に厩舎を構えて以来、世界一を目指して幾度となく海を渡ってきた。

当初は「無謀だ」「海外旅行に連れて行っているだけ」と陰口をたたかれ、離れていく馬主もいた。それでも信念を貫き、独自のノウハウを蓄積していった。

2008年冬、香港への遠征時には、競走馬と同じ貨物室に乗り込み、空輸が馬に与える影響を自ら体感した。酸素ボンベを背負い、窓のない空間で過ごす経験は、後の海外遠征における貴重な知見となった。

転機となった10年前の勝利

転機が訪れたのは2016年3月のことだ。国内GIでは善戦どまりだったリアルスティールを、海外の芝GIに挑戦させて見事勝利。これが厩舎として延べ13頭目の海外遠征で初のGI制覇となった。

その後も香港やオーストラリアなどでGIを制覇。貨物室での経験を生かし、気圧変化による脱水症状への対策や水分補給のタイミングなど、海外遠征に特化した知識を蓄積していった。

運命を変えたダート転向の決断

2022年、矢作調教師はある馬主に一頭の若駒を薦めた。後にフォーエバーヤングと名付けられるこの馬は、調教助手の岡勇策(40)から「芝よりダート向き」との指摘を受けた。

ダート路線への転向は、日本競馬の最高目標である日本ダービーを諦めることを意味した。馬主の藤田晋・サイバーエージェント会長(52)は当初落胆の色を見せたが、「先生がそう言うなら」と理解を示した。

この決断が歴史を変えることになる。フォーエバーヤングは3戦目で7馬身差の圧勝で2歳ダート王者に輝き、2024年にはケンタッキーダービーで日本勢史上最高の3着を記録。2025年2月には中東のGIも制した。

完璧な調整とチームワーク

2025年秋のBCクラシックに向け、陣営は入念な調整を重ねた。特に前年のレースで課題となった最後のコーナーでのスピード維持に焦点を当て、徹底した調教を行った。

レース数日前、騎手の坂井瑠星(28)はフォーエバーヤングにまたがり「完璧」とつぶやいた。馬の成長と、密な対話を続けてきたチーム一丸の調整の成果が実を結ぼうとしていた。

調教助手の岡は、本番用の鞍をつけるためだけに日本から片道15時間のフライトで駆けつけた。過去に別のスタッフが鞍をつけた際に馬が暴れた経験から、デビュー時からの相棒である岡の存在が「ラストピース」となった。

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歴史的瞬間とその余韻

レースでは、坂井騎手が絶好のスタートを決め、先頭から差のない位置をキープ。トップスピードのままコーナーを回り、一気に先頭に躍り出た。最後までスピードは衰えず、前年優勝馬らを退けての優勝となった。

ゴール後、涙を流す仲間の姿に坂井騎手ももらい泣き。矢作調教師も藤田馬主、岡調教助手と抱擁を交わした。

元調教師の藤沢和雄(74)は「海外遠征は日の丸を背負ったかのような重圧がある。あんなに苦しい挑戦を続けた結果に拍手を送りたい」と称賛。海外競馬解説者の合田直弘(66)は「遠征の知識を蓄えた『厩舎力』の勝利だ」と評価した。

次なる夢に向かって

矢作調教師には定年まであと6シーズン。次なる目標はケンタッキーダービーと凱旋門賞制覇だ。「泣き言は言うけど、結局は挑戦を続けるんだよ。最後の1日までずっと」と語る調教師の目は、既に新たな頂点を見据えている。

フォーエバーヤングの血統を遡ると、1989年のBCクラシック優勝馬サンデーサイレンスに行き着く。日本競馬の勢力図を変えた名種牡馬の血は、無敗の三冠馬ディープインパクトを経て、リアルスティール、そしてフォーエバーヤングへと受け継がれた。歴史的快挙の背景には、日本競馬を支える確かな血統の流れも存在していたのである。