東日本大震災の記憶を未来へ 宮城県東松島市で犠牲者名読み上げるミュージカル
東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた宮城県東松島市で、被災者らが市内で亡くなった千人以上の名前を読み上げるミュージカルが3月に上演される。上演は恒例となっているが、今回は初めて犠牲者一人ずつの名前を劇中で紹介する。震災から15年が経過し、記憶の風化が懸念される中、かけがえのない家族や友人への思いを空に向かって叫び、その存在を確かに伝え続ける。
「あなたを忘れない」 被災者40人が参加する舞台
ミュージカルのタイトルは「あなたを忘れない」。2月中旬、東松島市の集会所では、子どもから80代までの被災者約40人が熱心に稽古に励んでいた。稽古場には「口げんかしたあのころ、代わり映えしない日常がとても幸せだった」というせりふが響き、時折笑い声も上がる和やかな雰囲気に包まれている。
このミュージカルは、東京在住の作曲家・寺本建雄さん(79)と、妻でプロデューサーの祖父江真奈さん(75)が旧知の被災者からの相談を受けて企画。被災者も参加し、震災翌年から始まった。東京や被災地、米国でも上演してきた実績を持つ。2024年には被災者による新劇団「100通りのありがとう」を立ち上げ、震災の記憶や教訓、支援への感謝を伝え続けている。
1110人の名前をすべて読み上げ 風船に託して空へ
今年の上演は3月8日、東松島市東日本大震災復興祈念公園で行われる。寺本さんらは出演者からエピソードや大切な人を失った悲しみ、それでも前を向いて懸命に生きる気持ちを丁寧に聞き取り、脚本を書き下ろした。
生演奏や歌に合わせて、市内の犠牲者1110人(2021年3月時点)のうち、公表されている名前をすべて読み上げる。舞台の最後には、名前を記した紙をくくりつけた風船を来場者と一斉に空に飛ばす計画だ。
「名前ってその人の人生そのものだから、間違えちゃいけないよ」。稽古場で、妻と長男、妹を亡くした団長の菅原節郎さん(75)が参加者に呼びかける。その言葉には、一人ひとりの存在を確かに記憶にとどめたいという強い思いが込められている。
被災者たちの声 それぞれの思いを舞台で表現
石巻市の高橋賢造さん(64)は、小中学校の同級生だった亡き友人への思いをこう叫ぶ。「サーフィン終わってからのビール最高だったな。おまえのことだから、きっと何人も助けて力尽きたんだよな」。友人は車で避難する途中、東松島市で渋滞に巻き込まれて津波の犠牲になり、約1カ月後に遺体が見つかったという。
親子で出演する東松島市の岡崎雅枝さん(52)は、津波で妹とその子どもの3人を失った。「たくさんの人が亡くなった。みんなのこと、絶対忘れないよって伝えたい」。父の木村健人さん(84)は「じっちは元気だー」というせりふを叫び、震災後に「供養」として作り始めた獅子頭も舞う予定だ。
悲しみを乗り越え 明るく前を向く被災者の姿
プロデューサーの祖父江さんは、ミュージカルを始めた当初を振り返り、「稽古中に思いがふっと戻っちゃって、皆よく泣いていた」と語る。しかし今では、「今回は生きていてほしかった人の名前に込められた願いを共有し、明るく頑張っている被災者の姿を多くの人に見てもらえたら」と願っている。
震災から15年。時間の経過とともに風化しがちな記憶を、舞台を通じて鮮明に蘇らせ、未来へと継承していく。東松島市で繰り広げられるこのミュージカルは、単なる追悼を超え、命の尊さと復興への歩みを力強く伝える場となっている。
