知床の川再生へ手作業でダム改良、サケマス産卵場所復活に挑む
知床の川再生へ手作業でダム改良、サケマス産卵場所復活

知床の世界自然遺産地域において、川の再生を目指した手作業によるダム改良が行われ、サケマスの産卵場所が復活しつつある。北海道大学名誉教授の中村太士氏(67)が、長年にわたる取り組みの経緯を語った。

100以上の河川工作物が課題

知床の川には100か所以上のダムなどの河川工作物が存在し、世界自然遺産登録の際にも最大の課題とされた。審査機関である国際自然保護連合(IUCN)は、ダムの撤去を強く求めてきた。しかし、林野庁や北海道は当初、撤去はおろか、ダムを改良する意向すら見せなかった。彼らはサケマスが遡上できる魚道を整備すれば十分だと考えており、それでは新たな構造物を追加することになる。

科学委員会の助言で改良へ

登録前年の2004年、専門家による助言組織「知床世界自然遺産候補地科学委員会」(現・知床世界自然遺産地域科学委員会)が発足。中村氏は、林野庁などに対して少なくとも1基のダムを改良するという条件で、河川工作物ワーキンググループ(WG)の座長を引き受けた。WGでは、ダムの中央に切り込みを入れる「スリット型」への改良を提案し、3基で実施することを決定。結果的に5河川13基の改良を行い、2012年度に完了した。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

改良により、サケマスの遡上は成功したが、中村氏は「もっと重要なのはダム区間に産卵場所を復活させること」と強調する。特にIUCNが注目するルシャ川(斜里町)では、低い3基のダム群があり、この区間で産卵床を復元するためには地下部分を含む「部分的撤去」が必要だった。北海道もこの提案を承認し、2024年に工事が終了した。

手作業による撤去で自然保護

オッカバケ川(羅臼町)では、林野庁北海道森林管理局から「手作業でやりましょう」と提案があり、中村氏は驚いた。重機を使えば搬入用の道路を造らねばならず、自然破壊につながるからだ。実際の工事では、作業員が道具を抱えて山に入り、ダムを徐々に撤去していった。この試みにIUCNは驚嘆し、絶賛した。

野生魚の回復に期待

近年、遡上するサケマスが激減しており、これは人工孵化事業のあり方を考える契機となっている。知床の野生魚は長い環境変動の中で適応しながら生き続けてきた。中村氏は「孵化放流に過度に依存することは、野生魚が本来持つ遺伝的多様性や環境への適応力に影響を与える可能性がある」と指摘する。この問題に気づいた漁業者の中には、野生魚を回復させようとする動きが出ており、今後に期待が寄せられている。

「知床モデル」の広がり

科学委員会は、ヒグマ対策、漁業との共生、エコツーリズムなど各分野で専門家集団が提言を行ってきた。議論は全面公開で透明性を確保し、緊張感を持った議論を重ねて政策につなげた。こうした取り組みは、日本の世界自然遺産地域では知床が初めてであり、現在では「知床モデル」として屋久島や白神山地、小笠原など各地で導入されている。

中村氏は「時代の変化にどう向き合い、対応していくのか。知床は注目されている地なのだ」と語り、今後の課題に言及した。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ