愛知県在住の筆者が書店で手に入れた本を紹介するこのコーナー。そろそろ梅雨の季節ですね。雨の日は外出がおっくうになりがちですが、そんな日こそゆっくりと読書に浸る絶好の機会ではないでしょうか。今回は、腰を据えてじっくり楽しみたい、一風変わったミステリー小説を3作品ご紹介します。
ネタバレ提示で真相は遠く
『ネタバレあり 双紋島の殺人』
まずは『ネタバレあり 双紋島の殺人』(下村敦史著/光文社)。タイトルや表紙にもあるように、あらかじめ七つのネタバレが提示されているという、前代未聞のミステリーです。実際に主人公が体験した事件をモデルにした作中作『双紋島の殺人』が本作の大半を占め、読者に嵐の孤島で起きた連続殺人事件の犯人を突き止めてもらう構成になっています。ネタバレが七つも用意されているので簡単に謎が解けると思いきや、著者の巧みな筆運びで、そう簡単には真相にたどり着けません。しかも、ネタバレが提示されていること自体にも意味があり、ラストでその仕掛けが効いてきます。ぜひ、この謎に挑む読者の一人になってみてください。
「捕らえる」と「逃がす」の攻防
『盾と矛』
続いて『盾と矛』(方丈貴恵著/KADOKAWA)。犯罪者を必ず捕らえる「絶対に逃がさない探偵」と、事件を隠蔽・捏造して犯罪者を逃がす「必ず無罪にする仕事人」の、まさに「盾と矛」の対決を描いた連作ミステリーです。第1章、第2章と進むにつれ、互いに出し抜き合う推理合戦は熱を帯びていきます。最終章の第3章では、それぞれの「覚悟」がこれ以上ない形で描かれ、あまりにも意外な結末を迎えます。異色の対決を見届けた先に、著者の覚悟までもが垣間見えるようでした。一気読み必至の新感覚ミステリーです。
読むほどに足元がぐらつく
『ナッハツェーラーの城 或いは最後の〈奇書〉』
最後に『ナッハツェーラーの城 或いは最後の〈奇書〉』(倉野憲比古著/中央公論新社)。謎の失踪を遂げた怪奇探偵小説家が遺した未完の原稿『ナッハツェーラーの城』。その原稿を完成させるべく館を訪れた作家の主人公が、殺人事件に巻き込まれていきます。タイトルからしてただならぬ気配がありますが、現実と虚構、物語と事件がねっとりと絡み合い、読み進めるほどに足元が揺らいでいくような感覚に陥ります。奇書、変格推理、怪奇といった言葉に食指が動いた方なら、きっとこの独特の世界の深みに引き込まれ、抜け出せなくなることでしょう。一筋縄ではいかないミステリーをじっくり味わいたい方におすすめです。
今回は、いずれも今年刊行された一風変わったミステリー小説を3作品ピックアップしました。長雨の季節に、時間を忘れて読みふけるような一冊と出会っていただけると幸いです。次回はどんな小説をゲットできるのでしょうか。お楽しみに!
越尾圭(こしお けい)
1973年生まれ。愛知県東浦町在住。第17回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉『クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない』でデビュー。既刊に『なりすまし』(角川春樹事務所)、『誰がためにその手は』(ハーパーコリンズ・ジャパン)など。6月11日に『もう一度だけ会えたなら、ぼくとわたしは――』(幻冬舎)、7月に『黒幕』(角川春樹事務所)を刊行予定。



