幻のごぼう「はたごんぼ」が若き生産者の手で復活
高野山の麓、標高約200メートルの和歌山県橋本市西畑地区。この地で江戸時代から栽培されながら、戦後は「幻のごぼう」と呼ばれるほど稀少となっていた在来ゴボウ「はたごんぼ」が、35歳の若き生産者・田中計己さんの情熱によって見事に復活を遂げている。
驚異のサイズと独特の風味
はたごんぼは「滝野川」と呼ばれる一般的な品種だが、西畑地区の粘り気のある肥沃な赤土と大きな寒暖差によって驚くほど大きく育つ。大きいものでは直径6センチ、長さ80センチにも達し、その姿はまさに圧巻だ。
身はホクホクと柔らかく、ゴボウ独特の香りが豊かに広がる。しかし、この品質を維持するためには、赤土を深さ40~50センチまで耕す必要があり、かなりの重労働を伴う。
地域の伝統と若者の決断
橋本市出身の田中さんは高校卒業後、会社員として働いていた。2019年頃、地元の有志が約10年前から「再び特産品に」と復活に取り組む一方で、生産者の高齢化が進んでいることを知り、自分も加わりたいと強く思うようになった。
JAの研修などで農業技術を学び、2024年から本格的に栽培を開始。3月に種をまき、秋の収穫まで水やりや除草を重ねる日々だ。夏場の晴天が続く日には、5アールほどの畑に1日で約1トンもの水をまくこともあるという。
収穫の喜びと地域への奉納
収穫期になると、田中さんはパワーショベルで深く掘った溝に入り、横へと土をかき分けながら丁寧にはたごんぼを掘り起こす。「この大きさならお大師さんに喜ばれる」と納得の表情を浮かべる田中さん。
収穫されたはたごんぼは、高野山真言宗・総本山金剛峯寺に野菜などを奉納する地元の伝統行事「雑事のぼり」でお供えにされる。地域の信仰と農業が深く結びついた貴重な慣習だ。
地域活性化への取り組み
地区内の農産物直売交流施設「くにぎ広場」では、はたごんぼを焙煎したお茶や、練り込んだあられなどが販売されている。併設の食堂では、はたごんぼの天ぷらうどんが味わえ、「良い香り」「甘みがある」と観光客から好評を博している。
田中さんは現在、9月にも種まきをして年に2回収穫できる体制づくりに取り組んでいる。「一年中、はたごんぼを食べられるようにしたい。通販を使って全国にファンを作り、ますます地元の人が誇りに思える作物にしたい」と夢を語る。
伝統野菜の未来へ
はたごんぼの復活は、単なる農産物の再生にとどまらない。地域の伝統文化を継承し、新たな価値を創造する取り組みとして注目されている。若い世代が地域農業に参入し、伝統と革新を融合させる好例として、全国の農業関係者からも関心が寄せられている。
和歌山の豊かな自然と人々の努力が生み出した「幻のごぼう」は、今、確かな歩みを続けている。



