三重県伊賀市の西山の棚田で、耕作放棄地の増加を防ごうと、地元住民で構成する集落営農組織「たなだ維持・管理組合」による米作りが本格的に始まった。吉藤圭作理事長(79)は、「ちゃんとした田んぼがあるのに、荒らしといてはもったいない。若い人がやろうという時に、引き継げるようにしておきたい」と、取り組みへの思いを語る。
棚田に響くエンジン音、笑顔の田植え
大型連休明けの5月上旬の週末。棚田を囲む山々の新緑のグラデーションが美しい。「ドッドッドッドッド」―。心地良い青空の下、農業用機械のエンジン音が響き渡る。「あぜの所が難しいなあ」「もう1回やってみるわ」「苗はまだあるで」。エンジン音とともに、1枚の田んぼから楽しげな声が聞こえてきた。
吉藤さんら5人が、組合として初めて復活させた約600平方メートルの水田で田植えに汗を流していた。この田んぼで米を作るのは約10年ぶりだという。土壌に養分が蓄積されており、稲の背が高くなりやすいため、倒れにくい品種のキヌヒカリを植えた。田植え機から降りた吉藤さんは「長い間作ってないから、底がでこぼこで苗の列がゆがんでくる。見た目は良くないね」と笑顔で話し、「これで上がろうか」と仲間と片付けを始めた。
高齢化で増える耕作放棄地、組合設立の背景
西山の棚田では、農家の高齢化や減少により、耕作放棄地が増加傾向にある。荒れた農地は獣害や病害虫の発生源となり、近くの農地に悪影響を及ぼす。特に棚田は平地の田んぼと比べて傾斜があったり水が少なかったりするため、管理に手間がかかる。
耕作を継続できなくなった場合、これまでは個人間で管理を依頼することが多かったが、地域全体の高齢化でそれも難しくなってきた。吉藤さんは、木が生えてしまった耕作放棄地では「根が広がるので1年で元に戻すのは難しい。根を抜くには重機も必要になる」と話す。こうした背景から地域は昨年4月、組合を設立した。
未来への継承、果たすべき義務
組合は今後、棚田内の水の流れなどを考慮しつつ、耕作できそうな田んぼがないか調査する。野菜などの栽培も検討するという。吉藤さんも、父から引き継いだ田んぼを管理する。棚田を守ることについては「ほんとにしんどいね。決して楽ではない」と笑いながら語る。「米は売れなくなるかもしれない。でも、いつでも作付けできるようにしておくことは、われわれがやっておくべき義務なんじゃないのかな」と、その決意を述べた。
この連載は、西山の棚田を守る意義や米作りの現実を、ルポを交えながら追う。今回の記事は第8回で、耕作放棄地を復活させ次代に引き継ぐ取り組みを紹介した。今後も随時掲載予定。



