静岡県森町三倉の大河内地区で、耕作放棄地が「天空の森 エミュー牧場」に生まれ変わって1年あまりが過ぎた。「村長」の寺田光利さん(74)は、昨年末から春先にかけて生まれた雛の世話などに奔走する。過疎化が進む大河内地区で、エミューによる地域活性化を期待する住民らに背中を押され、「今が踏ん張りどころだ」と奮闘している。
エミュー牧場の誕生
森町の中心部から太田川の支流に沿って車で約40分。山あいにある大河内地区で、荒れ地となっていた水田約1000平方メートルを所有者ら「村民」と4人で手作業で整地し、牧場にしたのが昨年3月。豪州原産の大型鳥エミューや牧場経営についての知識も不十分なままでのスタートだった。
熊本県にあるエミュー牧場などからアドバイスを受けながら、1歳となる雌4羽、雄5羽を飼育してきた。昨年12月から今年4月にかけて雌4羽が計55個の卵を産み、孵卵器で約50日間育てて32羽が孵化した。雛の大きさごとに4つの部屋に分けられた飼育小屋をのぞくと、幼鳥期に特有の茶色いしま模様のエミューが餌を懸命についばんでいた。
事業化への展望
繁殖力の強いエミューは、年間約20個の卵を産む。エミューの脂肪は化粧品に利用され、高たんぱくの肉は豪州では食用となる。寺田さんもいずれは化粧品開発や食肉販売、エミュー肉のレストラン経営にも乗り出したいと考えている。既に大学にも相談を持ちかけているという。
ただ、事業として採算を合わせるには、恒常的に500羽を飼育することが必要。そのため、周辺の耕作放棄地に第2、第3の牧場を開設し、大河内地区を「エミューの里」とする青写真を描いている。
住民との連携
寺田さんらの活動を住民も温かく見守っている。エミューの餌は、キャベツやチンゲンサイなどの野菜が主。そのほとんどを近隣の農家のほか、森町給食センターから残滓の提供を受け、まかなっている。
30、31日に三倉地区などで開催されるイベント「ぷぶふの日」には、エミューの卵を使ったどら焼きを販売するほか、新たに雛の飼育小屋や孵卵器を購入するためのクラウドファンディングもスタートさせる。豪州では「愛の象徴」とされるエミューの羽根の配布も検討している。
寺田さんの決意
寺田さんは約100年にわたって続き、大河内地区では唯一の食料品や日用雑貨を扱う「寺田商店」を経営している。かつては約100戸あった同地区も、今は約20戸。街中まで買い物に出られない高齢者にとって、寺田商店が生活のよりどころだ。「一人でも頼りにしてくれる限り、店を閉めることはない」と寺田さんは言い切る。生まれ育った大河内地区。衰退に少しでもブレーキをかけ、活性化につながるなら何にでも取り組む覚悟だ。
エミューの特徴と可能性
豪州原産で翼が退化し、飛べない走鳥類としてはダチョウに次いで大きい。飛べない代わりに時速約50キロで走る。2年ほどで成鳥となり、体重は約50キロ、体高は約2メートルを超えることもある。雛が生まれるまでの抱卵は雄がする。温厚で寒暖差にも強く、育てやすいとされる。
脂肪から取れる油は、豪州の先住民アボリジニが古くから薬にも利用してきた。肉は豚肉や鶏肉と比べて高たんぱく・低脂肪でヘルシーな食材としても注目されている。国内でも、エミューの飼育を通して地域活性化に取り組む動きがある。



