アフリカ豚熱の脅威が日本に迫る…東アジアで未発生はわが国のみに
豚とイノシシに感染する致死率ほぼ100%の伝染病「アフリカ豚熱」の国内侵入リスクが高まっている。近年韓国で感染が相次ぎ、昨年秋には台湾でも初確認され、東アジア地域で発生していないのは日本だけとなった。人には感染しないものの、いったん侵入されれば豚の大量殺処分を迫られ、豚肉供給の減少と価格高騰が避けられない情勢だ。農林水産省は空港や港での水際対策を強化しているが、専門家からは「最悪のシナリオでは国内の飼養豚が4割減少する可能性もある」との懸念が示されている。
致死率ほぼ100%…有効なワクチンも治療法もなし
農水省によると、アフリカ豚熱に感染した豚やイノシシは発熱や出血症状を示し、致死率はほぼ100%に達する。現在のところ有効なワクチンや治療法は確立されておらず、養豚場で1頭が感染すると他の豚への拡散リスクが極めて高い。家畜伝染病予防法では家畜伝染病に指定されており、感染が確認された養豚場では報告義務と全頭の殺処分が義務付けられている。周辺の養豚場でも予防的殺処分の検討が必要となる。
この感染症は世界的に拡大を続けており、2005年以降、アフリカ、アジア、欧州など84の国と地域で発生が確認されている。近隣諸国では中国で2018年に初確認され、豚の飼育頭数が約4割減少、豚肉価格は2.5倍に高騰した。韓国では2019年の初発生以降、今年3月中旬までに飼養豚で79件、野生イノシシで4,416件の感染が報告されている。台湾でも昨年10月に初めて確認され、東アジアにおける感染拡大が顕著となっている。
養豚関係者の危機感「侵入されればとんでもないことに」
日本国内では豚もイノシシも感染は確認されていないが、養豚現場では警戒が強まっている。各養豚場では野生イノシシの侵入防止柵の設置や、スタッフの手や靴の消毒を徹底。日本養豚協会(東京)の鋤柄卓夫専務理事は「いったん侵入されれば、とんでもない事態になる。中国や韓国のような状況になることは明らかだ」と強い危機感を表明している。
侵入ルートとして最も懸念されるのは、飛行機や船で来日する旅行者の靴や荷物にウイルスが付着して運ばれるケースだ。日本と韓国・台湾間では航空機や船舶の便数が多く、移動時間が短いためウイルスの生存率が高まるという特性がある。
違法持ち込みが急増…昨年は22万件超で過去最多
もう一つの主要な侵入経路は、ウイルスが付着した肉製品などの畜産物が国外から持ち込まれるケースである。家畜伝染病予防法では畜産物の個人による持ち込みを原則禁止しているが、農水省によると、昨年の違法持ち込み摘発件数は22万962件(速報値)に上り、記録が残る2016年以降で最多を記録した。この数字は侵入リスクが高まっていることを示している。
農水省はこうした状況を受け、空港や港で畜産物を廃棄する権限を持つ家畜防疫官と動植物検疫探知犬の出動を増強。旅行客の手荷物や貨物の検査を強化している。関西空港では、違法に持ち込まれた畜産物の摘発が1日に100件を超える日もあるという。
関西空港で働く家畜防疫官の阿部花梨さん(25)は「アフリカ豚熱を水際で防ぐ責任がある。絶対に侵入させないという強い意志で臨んでいる」と語る。同空港では検疫探知犬のラブラドルレトリバー「ガヨ号」が入国者の荷物を嗅ぎ回り、違法畜産物の発見に努めている。
法改正で販売禁止・立ち入り検査権限を強化
政府は3月24日、家畜伝染病予防法の改正案を国会に提出した。改正案では、持ち込まれた疑いがある肉製品の販売を禁止し、家畜防疫官が外国食材店や倉庫に立ち入り検査できる権限を強化することを目指している。これにより、水際対策に加えて国内流通段階での感染防止策を講じる方針だ。
輸入停止が相次ぎ、豚肉価格は高止まり傾向
食への影響も懸念材料となっている。日本ではアフリカ豚熱が確認された国・地域からの豚肉輸入を停止しており、2022年には感染のあったイタリアからの輸入を停止。飲食店では生ハムなどの産地変更が相次いだ。
さらに2025年11月にはスペインでも感染が確認され、輸入が停止された。外食大手「すかいらーくホールディングス」は今年3月31日、しゃぶしゃぶ専門店「しゃぶ葉」でスペイン産の豚バラ肉の取り扱いを休止すると発表。米国産の豚ロースに切り替える方針を示し、同社担当者は「一日も早い収束を願っている」とコメントしている。
こうした輸入停止の影響もあり、日本国内の豚肉卸売価格は高止まり状態が続いている。もし国内で感染が確認されれば、さらに価格が上昇すると見込まれている。
農水省「万が一の侵入にも全力で封じ込めを」
農水省の担当者は「最悪のシナリオでは、年間に数十件の感染が確認され、飼養豚が4割減少することも考えられる。しかし、万が一国内に侵入されたとしても、全力で封じ込めを図りたい」と述べ、危機管理への決意を示した。
東アジアで最後の未発生国となった日本は、国際的な人の移動が活発化する中、水際対策の重要性がかつてないほど高まっている。養豚産業を守り、食の安全を維持するため、官民一体となった警戒体制の継続が求められている。



