ドコモ「iモード」27年の歴史に幕 革新技術と海外展開の教訓
NTTドコモのインターネット接続サービス「iモード」が3月末で終了し、27年にわたる歴史に幕を閉じた。現在のスマートフォン社会の原型を築いた革新的技術として海外からも高い評価を受ける一方、国内市場を重視するあまり世界展開に失敗した事例として、日本企業に重要な教訓を残した。
アプリストアの先駆けとしての評価
情報システムを専門とする米ボストン大学のアンドレイ・ハギウ教授は、「iモードは、後にアップルやグーグルが展開したアプリストアの先駆けだった。特に決済システムは極めて革新的だった」と高く評価している。同教授は2004年から2005年にかけて日本で過ごし、実際にiモードを利用してその先進性に驚かされたという。
iモードが登場したのは1999年。当時は数十万円もするパソコンでインターネットを利用するのが一般的だったが、ドコモは携帯電話から簡単にネット接続ができる独自技術の開発に成功した。メール送信や銀行振り込み、チケット予約などが携帯からできるようになり、爆発的な人気を集めた。ピークの2009年度には契約数が約4900万に達した。
決済システムとコンテンツ産業の発展
iモード上の各種サービスの利用料金は、ドコモが電話料金とセットで回収する仕組みだったため、クレジットカードの番号を入力する必要がなかった。このシステムにより、有料サービスに対する利用者の心理的なハードルが下がり、ネット向けのゲームや音楽、漫画などのコンテンツ産業が大きく成長した。
また、限られた文字数でメールを送るために開発された「絵文字」は、今や「emoji」として世界に広がり、様々な場面で感情表現に利用されている。このように、iモードは技術面だけでなく、文化面でも大きな影響を与えた。
iPhone登場による急激な衰退
しかし、2008年に米アップルのスマートフォン「iPhone」が日本で発売されると状況が一変した。iモードは折りたたみ式など「ガラケー」と呼ばれる旧来型携帯電話で使われていたが、大きな画面をタッチしながらネットを利用できるiPhoneの普及に伴い、利用者が急減した。契約者数は2025年3月末に約79万まで落ち込んだ。
ハギウ教授は、「日本の携帯電話はiPhone以前、世界最高の性能を持っていたが、それらはiモードと日本市場に特化していた」と指摘する。「アプリストアのような形に進化させて海外展開することもできたはずだが、ドコモはiモードの海外展開のための取り組みをほとんど行わなかったように見える」と分析している。
海外展開失敗の背景と教訓
一方、IT産業に詳しい米スタンフォード大学のスンジン・ファン名誉教授は、「iPhoneの成功は、世界的な発信力を持つ米国と、スティーブ・ジョブズという天才に支えられていた。ドコモにはその両方がなかった」と見ている。ファン氏は、「iモードはサービスであり、日本以外に広げることが難しかった。ジョブズ氏はスマホという端末から出発したため、その革命は世界に広がりやすかった」と分析する。
ドコモも当時、iモードの海外展開を試みたが、独自の通信方式が採用されていたため、そのまま海外に持っていくことはできなかった。海外企業との連携交渉もうまくいかず、日本独自仕様の携帯電話は世界の潮流から外れ、「ガラパゴス」と揶揄されることになった。
残された重要な教訓
iモードが残した教訓について、ハギウ教授は「世界で通用する製品・サービスを目指さなければ、海外企業が日本に参入してきた際に置き換えられるリスクがあるということだ。世界展開を目指すことで、結果的に製品やサービスも磨かれるはずだ」と指摘する。この教訓は、現代の日本企業にとって依然として重要な示唆を与えている。
iモードは、携帯電話から本格的にインターネットを利用できる世界初のサービスとして歴史に名を刻んだ。「i」には、インターネットやインフォメーションの頭文字、「私」を意味する「I」などの意味が込められたとされる。基盤となっている通信規格「3G」の終了に伴い、3月末でサービスを終了したが、その革新性と教訓は今後も語り継がれるだろう。



