三重・尾鷲の老舗干物店がドライフルーツに挑戦 76年の技で地域の果物を新たな土産品に
尾鷲の干物店がドライフルーツ製造 76年の技で地域果物を土産品に (12.04.2026)

漁師町の老舗が新たな挑戦 干物の技で果物を干す

三重県尾鷲市で76年にわたり営業を続ける老舗干物店「北村魚店」が、昨年10月から新たな事業に乗り出した。同店は「北村果物店」の名のもと、ドライフルーツの製造販売を開始。県南部で栽培される新鮮な果物と、長年培ってきた乾燥技術を組み合わせ、新たな地域土産品としての可能性を探っている。

4代目の発想 果物を干せばドライフルーツに

店舗の一角に設けられた約2平方メートルの小さな製造スペース。足を踏み入れると、甘酸っぱい香りが漂う。室内の乾燥機には、薄くスライスされたイチゴが整然と並べられている。

北村魚店は1950年(昭和25年)に創業。当初は「イタダキ」と呼ばれるリヤカーで鮮魚を売り歩き、その後干物製造も開始した。1980年代には冷蔵・冷凍宅配便の登場により干物専門店へと転換。塩分を控えた「甘口」の味わいが評判を呼び、現在では店頭販売に加え、インターネットを通じて全国に商品を届けている。

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ドライフルーツ事業を立ち上げたのは、3代目店主・北村守正さん(69)の長女である清水理恵さん(31)。浜松市の大学でデザインを学び、静岡県島田市の広告代理店で勤務していたが、2年前に家業を継ぐために帰郷した。

「気軽に購入できる常温のお土産を」という考えから商品開発に着手。尾鷲甘夏や「年中みかんのとれるまち」として知られる御浜町のかんきつ、紀北町のレモンなど、東紀州地域で盛んな果物栽培に着目した。「魚を干せば干物になる。同じように果物を干せばドライフルーツができるはず」。地域の魚にこだわってきた店の伝統を継承しつつ、地元の果物を使った新商品の開発を進めた。

厳しい干物業界の現状と新事業の可能性

一方、同店の本業である干物製造を取り巻く環境は厳しさを増している。東京商工リサーチの調査によると、昨年1年間の干物製造業の倒産件数は全国で7件に上り、2004年以降で最多を記録。その理由として「販売不振」が挙げられている。

尾鷲市内でも近年、2つの業者が廃業に追い込まれた。漁獲量の減少による魚価の上昇に加え、砂糖や醤油などの調味料価格の高騰が重なっている。さらに食生活の変化により売り上げが減少傾向にあり、製造コストが見合わなくなりつつあるのが現状だ。守正さんは「昔ながらの漁師町の商品として、できれば後世につなげていきたい」と語る。

こうした状況の中、新たなドライフルーツ事業は経営の多角化につながる可能性を秘めている。ドライフルーツを求めて来店した客が干物を手に取ったり、常連客が「こんな商品が欲しかった」と新商品を購入するなど、相乗効果も生まれ始めているという。

地元の味を凝縮 丁寧な製造工程

当初は外部の施設に製造を委託していたが、今年3月に店内での製造が可能となった。保健所から必要な許可を取得し、専用の製造スペースを新設。12時間おきに果物と砂糖を混ぜて煮込み、1日以上かけて乾燥機でじっくりと干し上げる。包装まで含めると約4日間を要する丁寧な製造工程だ。

水分を飛ばしすぎないように調整するため、しっとりとした食感が残る商品もある。完成したドライフルーツは、果物本来のおいしさが凝縮された味わいが特徴。

商品ラインナップには、甘酸っぱさが特徴の尾鷲甘夏の皮を砂糖漬けにし、チョコレートを付けた「オランジェットピール」(20グラム入り、店頭価格350円)や、輪切りにした「飲み物に浮かべる甘夏」(15グラム入り、同450円)などがある。他にも御浜町産の温州ミカンやイチゴ、紀北町産のマイヤーレモンを使用した製品など、約10種類が揃う。

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四季折々の果物で尾鷲の記憶を

清水理恵さんは今後の展望について「将来的には四季折々の地元の果物を使って商品を作りたい。遠方でこのドライフルーツを見かけたときに、尾鷲のことを思い出してもらえるような存在になれれば」と語る。

「北村果物店」のドライフルーツは、4月15日から21日まで近鉄百貨店四日市店(四日市市)内のプラグスマーケットにも出品される。北村魚店の店頭のほか、同店のオンラインショップでも購入可能だ。

76年の歴史を持つ老舗が、伝統の技を新たな形で応用し、地域の魅力を発信する挑戦が続いている。