彦根城の世界遺産登録へ「5度目の正直」なるか 34年の挑戦が続く
国宝・彦根城の世界文化遺産登録を目指し、滋賀県と彦根市が「5度目の正直」に挑んでいる。登録候補となってから今年で34年目を迎えるが、足踏み状態が続いている。活路を見いだす鍵となるのが、城が持つ歴史的・文化的価値の再評価だ。江戸時代の平和を維持した統治システムの象徴としてアピールする戦略を展開し、今年3月には登録を目指す超党派の議員連盟も発足した。2026年度の国内推薦獲得に向け、今年が正念場となる。
市民の悲願実現へ 議員連盟が発足
「登録は彦根市民の悲願です。2026年度に国内推薦を何としてもいただきたい」。3月下旬、衆議院議員会館で開催された彦根城世界遺産登録推進議員連盟の設立総会で、田島一成彦根市長がこう力強くあいさつした。県と市は過去4度にわたり文化庁に推薦書案を提出してきたが、昨年は国内推薦候補から漏れるなど苦戦が続いている。
今回発足した議連は初めての試みで、最短で2028年の登録を見据えている。発起人代表で議連会長に就任した上野賢一郎厚生労働大臣は「登録に向け、今年が正念場だ」と気勢を上げ、関係者の意気込みを示した。
「大名統治システム」を前面に 独自性をアピール
中央にそびえる天守閣と、内外を隔てる二重の堀が特徴的な彦根城。城主を務めた井伊家は、重臣らを中堀より内側に住まわせ、合議政治を通じて城外の領地を統治した。徳川幕府はこのような形で諸大名に各地の領地権を預ける体制を確立し、約250年間にわたる平和を維持した。県と市はこの仕組みを「大名統治システム」と名付け、「彦根城がその存在を最もよく伝える」と主張している。
彦根城が世界遺産登録への国内候補となる暫定リストに記載されたのは1992年。しかし、翌1993年に姫路城が建築的価値で登録されて以降、彦根城は常に「姫路城との違い」を問われ続けてきた。一つの国から同種の遺産が登録されないためで、独自性を打ち出すために県と市が2023年から提唱してきたのが、この大名統治システムなのである。
単独登録にこだわる彦根城 他城との連携案も
徳川幕府の統治法の象徴としてPRする戦略に対し、ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)は「登録基準を満たす可能性はある」と評価している。しかし、懸案も残されている。「彦根城単独でシステムを表現できるのか。複数資産で登録を目指すシリアル推薦も考えるべきだ」との指摘を受けたためだ。
実際、彦根城や姫路城の他に、天守が国宝に指定されている犬山城(愛知県)、松本城(長野県)、松江城(島根県)がある3市では、国宝5城を合わせた「近世城郭の天守群」としての登録を目指す動きがある。彦根城も一時はこの枠組みでの登録を検討した時期があったが、「暫定リストに記載されているのは彦根城だけ。単独登録に集中すべきだ」という当時の市長の意向で、2010年代半ばに方針転換。現在は単独登録にこだわっている。
イコモス元副会長で東京大学名誉教授の西村幸夫氏(都市計画)は「他の国宝城郭などと連携し、『大規模な木造天守群』の方向性で展開する方が現実的」との見解を示している。しかし、県と市は単独での国内推薦獲得を目指し、できるだけ早期に文化庁へ推薦書案を提出する見込みだ。
34年の挑戦 行政には重い責任も
滋賀県と彦根市が事前評価を受理したのは2024年10月。昨年の挑戦は実を結ばなかったが、今年は受理から約1年半を経て、満を持して推薦書案を提出することになる。関係者らの期待はこれまで以上に大きい。彦根城世界遺産登録推進室の小林隆室長は「取り組みが年々前進している手応えはある」と期待を寄せている。
一方、地元では「いつまで続けるのか」という不満の声も聞かれる。国宝5城でまとめて登録を目指すべきとの意見もある。今回の挑戦の行方次第では、そうした声に真摯に向き合う責務が行政に突きつけられることになるだろう。34年に及ぶ長い挑戦の末、彦根城の世界遺産登録が実現するかどうか、注目が集まっている。



