小津安二郎監督の演出の巧みさを三浦哲哉氏が解説、『麦秋』の緻密な設計
小津安二郎の名人芸を三浦哲哉氏が解説

連載「リレーおぴにおん」では、日本映画界の巨匠、小津安二郎監督(1903~63年)の魅力に迫る。今回は映画研究者で批評家の三浦哲哉さんが、その演出の巧みさに焦点を当てる。小津監督は、日常の暮らしや人生の機微を描く脚本やカメラワークで知られるが、三浦さんは特に「演出のうまさ」に注目する。

抑えきれない感情の表現

小津監督の演出は、上っ面の感情表現や演技の巧みさではない。感情を抑えに抑え、それでも思わず漏れ出るものをさりげなくにじませる。これこそが観客の胸を打つ芸術だと、小津自身も語っている。その名人芸は、緻密な設計のたまものだという。

『麦秋』の喫茶店シーン

最高傑作とされる1951年の映画『麦秋』を例に見てみよう。原節子演じる紀子の結婚と大家族の離散を描いた作品で、喫茶店で紀子と幼なじみの謙吉がお茶を飲む場面がある。紀子が手袋を外し、コーヒーカップのスプーンを回す。南方戦線からまだ戻らない兄の話になり、謙吉が兄の手紙を持っていると語る。その瞬間、紀子の手がふと止まる。この一瞬の動きの停止が、兄を慕う彼女の心の琴線に触れる感情を表現している。抑えきれない思いが、さりげない動作ににじみ出るのだ。

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このように、小津監督は細部にまで緻密な計算を施し、観客に深い感動を与える。三浦さんは、小津作品の魅力が、こうした名人芸にあると指摘する。残り531文字は有料記事。

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