鹿児島県・奄美大島の近海で、ザトウクジラを観察するツアー参加者が急増しており、生態系保護が課題となっている。今シーズンの参加者は9950人と、5季連続で最多を更新し、コロナ禍前の3倍超に達した。ツアー事業者で構成される「奄美クジラ・イルカ協会」は、クジラの親子に与える影響を軽減するため、観察ルールを厳格化し、人間とクジラの共生を模索している。
冬の観光資源として人気上昇
協会によると、観察シーズンはおおむね1月から3月までで、今季の内訳は、船上からクジラを観察する「ホエールウォッチング」が6044人、海中でクジラに近づいて一緒に泳ぐ「ホエールスイム」が3906人だった。コロナ禍前の2019年のツアー参加者は2936人だったが、2022年以降増え続け、今年は前年の1.28倍となった。SNSを通じて冬場の奄美の観光資源として発信され、人気が上昇しているという。
出港する船も増えているため、今季船上から確認されたザトウクジラは、前季比7.7%増の延べ1939頭と、統計を取り始めた2006年シーズン以降で最多となった。行動を共にする群れごとでみると、延べ1187群に上った。そのうち15%にあたる179群が「親子連れ」だった。
ストレス恐れ、ルール強化
観光客の急激な増加で心配されているのが、人や船が頻繁に近づくことで、子育て中のクジラにストレスがかかることだ。ザトウクジラは暖かい奄美や沖縄で繁殖や子育てをしながら冬場を過ごし、春になるとカムチャツカ半島近海などに北上する。生後間もない子クジラは体長4メートルほどで、体長12~13メートルの母親クジラに授乳してもらいながら成長する。親子で寄り添って泳ぐほほえましい姿は、ダイバーたちにも人気が高い。
ただ、子クジラにストレスがかかれば成長を阻害し、えさを摂取しない授乳期の母クジラに近づくとエネルギーの消耗を招く恐れもある。このため、協会は観察ルールの規制を強化し、特に子育て中の親子を保護する対策を進めている。ホエールスイムでは今季から、生後間もない子クジラへの接近を禁止したほか、同じ群れに対するスイム観察は1航海あたり4回までとした。今後も、出港する船の隻数制限などを検討する。
順調に成長、影響調査の結果
協会は今年2~3月、影響調査を実施した。船上や海中から目視で確認したところ、ホエールスイムの前後でクジラが逃げ出すなどの行動は見られず、ドローン撮影では子クジラが順調に成長している様子が確認できたという。協会の興克樹会長(55)は「奄美で育った子クジラが、来季になればまた戻って来るように、ルールを守りながらツアー参加者と一緒に見守っていきたい」と話している。
熊本・天草のイルカウォッチングでも環境保護費
野生のイルカが泳ぐ様子を船上から観察できる熊本県天草市のイルカウォッチングでは、昨年4月から「環境保護費」を徴収している。同市市民環境課によると、周辺海域は餌となる小魚が多く、生息しやすい環境につながっているという。近年は年間6万人程度がイルカウォッチングを楽しんでいる。環境保護費は小学生以上が対象で、船を運航する市内の事業者でつくる「天草市イルカウォッチング事業者チーム」が乗船料とは別に1人500円を徴収している。水上パトロールや海岸清掃、SNSによる情報発信などに役立てている。同チームの事務局によると、今年3月末までに約400万円が集まった。担当者は「気候変動や海洋環境変化でイルカは減少傾向にある。人とイルカが共に生きる海を未来につなぐ活動に活用したい」と理解を求めている。



