控訴審に問われるもの 山上被告の無期懲役判決と宗教2世の苦悩
アクリル板越しに届くその声は、少しくぐもっていた。大阪拘置所の面会室で、髪を肩まで下ろした山上徹也被告(45)は、目線を落としたまま語った。「メディアと会ったのは『義理』を果たすため。控訴については詳しく言えないです」。面会に応じたのは、何度も手紙を送ってきた記者への礼儀や、仲介した弁護士の思いを考えてのことだという。
2月4日。ちょうど、奈良地裁の無期懲役判決に対し、弁護団が控訴したばかりのタイミングだった。20分という限られた面会時間のなかで、記者はこう尋ねた。「一審の判決をどう受け止めていますか?」
山上被告は、考え込む様子を見せながら答えた。「うーん。どうですかね……問題はあるけど……兄が亡くなっていなければ、普通に生活していただろうと」。無期懲役は、検察が求めた通りのものだった。生い立ちに不遇な面はあるが、判決はそれを十分に考慮したとは言い難い。
宗教2世としての苦悩
山上被告は旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の信者だった母親の影響で、幼少期から厳しい生活を強いられた。父親の死後、母親は多額の献金を続け、家庭は崩壊。兄は病気を患い、自殺に追い込まれた。山上被告自身も経済的に困窮し、精神的に追い詰められた末、安倍晋三元首相を銃撃するに至った。
一審判決は「自己都合」と断じたが、宗教2世の視点から見ると、社会の冷たさが背景にあるとの指摘も多い。批評家の藤田直哉氏は「幼少期の逆境体験などの不平等・不公平に対して、この社会が冷たすぎる」と述べ、経済や法におけるリベラリズム的な主体の前提が、現実の不平等を無視していると批判する。
控訴審の争点
弁護団は控訴審で、山上被告の生い立ちや宗教2世としての苦悩をより詳細に主張する方針だ。新たに加わった弁護士は、旧統一教会問題を専門的に追及してきたメンバーで、組織の責任を問う姿勢を強める。一方、検察側は一審判決を支持し、被告の行為は計画的で重大な結果を招いたとして、厳しい姿勢を崩さない。
山上被告は「40代だから」という年齢的な理由で更生可能性が低いと判断されたことに対し、「むしろ逆だ」と反論する。長年の苦しみから解放された今、初めて自分自身と向き合えると語る。
社会に問われるもの
この事件は、宗教2世の問題や社会の不平等を浮き彫りにした。控訴審の行方は、司法が個人の背景をどこまで考慮するかという重要な試金石となる。山上被告の言葉に耳を傾け、事件の背景にある構造的な問題を考える必要がある。



