愛知県春日井市では、町内会費に各種寄付金を上乗せして徴収する慣行が依然として続いている。役員の高齢化やなり手不足により、戸別集金の負担を軽減する目的で行われるこの方法について、住民の理解が十分に得られていない実態が明らかになった。2008年に最高裁が強制的な上乗せを違法と判断したことを受け、同市も行政が「強制的ではない」と注意を呼びかけてきたが、住民の中には上乗せ自体が違法だと誤解するケースもあり、丁寧な説明が求められている。
町内会の現状と住民の困惑
市内には区や町内会、自治会が合わせて500以上存在し、役員の大半が70代以上という地域も少なくない。ある80代の元町内会長は「本来は町内会費と寄付金は別々に集めるべきだが、集金や管理の負担が大きく、どうすれば良いか困っていた。何か指針があれば助かる」と振り返る。一方、寄付を求められた住民側にも戸惑いが広がる。50代の女性は「寄付には応じたが、何の説明もなく、なぜ必要なのか分からなかった」と話す。
最高裁判決の内容と影響
2008年4月に最高裁で確定した大阪高裁判決は、自治会が集金負担を減らすために寄付金分を年会費に上乗せした総会決議を違法と判断した。この判決では、自治会が未加入者に対して「ゴミ集積所を利用できない」などの規則を設けたことが、実質的な強制に当たるとされた。ただし、自治組織が寄付金を集めたり会費に上乗せしたりすること自体は違法ではなく、あくまで住民の自由意思による寄付が前提となる。
春日井市の取り組みと課題
春日井市の町内会などは毎年、日本赤十字社春日井市地区から活動資金、市社会福祉協議会から会費と赤い羽根共同募金への協力を求められている。対応はさまざまで、住民の同意を得た上で上乗せするケースや、上乗せするか寄付分のみ個人の判断に委ねるかを住民が選択できるケースに分かれる。自治組織は自主運営が原則のため、行政側は詳細を把握していないが、市福祉政策課の担当者は「全体の1割ほどは現在寄付金を集金していない」と明かす。
日本赤十字社は、石黒直樹地区長(市長)名で町内会長らに協力を呼びかける文書や、住民に回覧するチラシに「ご本人の自由意思によるものであり、決して強制的ではありません」「ご負担のない範囲で」などの一文を添えている。市のホームページでも注意を呼びかける。市社会福祉協議会も、町内会長らに向けた会員募集の書面で「一括して会員になる場合はあらかじめ総会などで同意を」と要請。赤い羽根の資料にも「募金はあくまで善意によるものであり、決して強制ではありません」と記している。
しかし、注意文の背景や理由まで理解するのは難しい。高齢化に伴う負担軽減が求められる中、協力要請に応える方法に困惑する役員も少なくない。他の自治体では、住民の疑問に答える形で最高裁判例の内容を説明し、「任意の協力であることを住民に理解していただくことが重要」といったQ&Aを公開したり、町内会長向けに判例を示した手引書を作成するケースもある。
寄付金の使途と役割の周知
寄付金については、役割や使途を知らないために協力をためらう人もいる。日本赤十字社春日井市地区の事務局を務める市福祉政策課などは「身近な社会福祉に役立てられていることを知った上で、自由意思で協力していただきたい」と呼びかけている。2024年度に同地区の活動資金として寄せられた寄付金は約1650万円(法人含む)。県支部から約330万円が地区に交付され、市内の災害時の備えに活用された。具体的には、災害時用のプライベートルームや移動炊飯器の配備、春日井まつりの防災グッズ配布、町内会の回覧板作成などに役立てられている。
2024年度に市社会福祉協議会には会費として約1240万円(個人)の寄付があり、ボランティアや地区社協の活動などに活用された。赤い羽根共同募金は市共同募金委員会分として約2270万円が寄せられ、高齢者や障害者らの福祉向上に使われた。寄付をネット上で手軽に行う仕組みもあるが、今も主流は対面だという。市社会福祉協議会の担当者は「コード決済で共同募金を集めようとした町内会もあったが、うまくいかなかった。住民の顔を見て直接お願いするのは“温かいお金”をいただく意味があると思う」と話す。



