六本木で半世紀、90歳店主が営む純喫茶「カファブンナ」 月1回の映画音楽会で交流
六本木で半世紀、90歳店主の純喫茶 月1映画音楽会

移り変わりの激しい東京・六本木の路地裏で、半世紀以上にわたり営業を続ける純喫茶の名店「かうひいや カファブンナ」。20世紀前半のアメリカのポピュラー音楽をこよなく愛する店主の能勢顕男さん(90)は、月に一度のイベントで自ら選曲した手書きのリストを作成し、名曲の数々を解説している。音楽を通じた交流が、能勢さんの人生に豊かな彩りを添えている。

カウンター越しに語る名曲の魅力

4月1日に開催された「懐かしい映画音楽の会」には、20代から90代まで幅広い年齢層の客12人が集まった。参加者たちは目を閉じたり、思い思いにリズムを取ったりしながら、美しい音楽に酔いしれていた。

「前半の最後は『Long Ago and Far Away』という曲です。1944年のミュージカル映画『カバーガール』の曲で、作曲したジェローム・カーンはミュージカルの父と呼ばれています。彼の最も有名な作品は『ショウボート』です」。能勢さんは曲の合間にカウンターの中から、DJ役として解説を加える。この会は毎週水曜日の定休日のうち、第1水曜日の午後2時から約2時間、毎回約20曲を解説する形で行われている。

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6年以上前からほぼ毎月参加する林美枝さん(90)は、「大正生まれで今年100歳になる姉が洋画好きで、幼い頃から一緒に親しんできた曲ばかりなので、とても懐かしい」とその魅力を語る。夫を亡くし、鬱々とした日々を送っていた林さんを心配した娘がこの会を紹介してくれた。しかし、その後、娘は勤務先で心臓発作を起こし、57歳で急逝してしまった。悲しみは癒えないが、「ここに来ると娘のことも思い出します」と林さんは語る。

深煎りコーヒーとの出会いが天職に

能勢さんが映画音楽の会を始めたのは十数年前。高校時代の友人が「音楽が好きならこういうことをやってみないか」と趣意書を作成し、背中を押してくれたことがきっかけだった。「そのおかげで今、こうして活動ができています。生きる力をもらいました」と能勢さんは感謝する。

能勢さんは1936年、当時の東京府東京市本郷区(現文京区)生まれ。幼い頃に父と兄を病気で亡くし、母と二人で借家住まいだった。終戦前年の秋に西多摩郡増戸村(現あきる野市)に縁故疎開したため、東京大空襲の被害は免れた。9歳で終戦を迎え、戦後は山の手大空襲で焼け野原となった現在の北青山周辺に住むことになった。コンクリートの塀を家の壁の一部として利用し、焼け残った木材を柱にして、その上にトタン屋根を載せたバラック小屋で生活を始めた。

大学に入学した1955年頃から日本は高度経済成長期に入った。大学時代は名曲喫茶に通い、LPレコードを持つ友人に音楽を聴かせてもらっていた。「アメリカのポピュラー音楽を好きになったのは彼のおかげです」と能勢さんは振り返る。

大学卒業後、いくつかの職を経験した後、千代田区内幸町の旧飯野ビルのスポーツ用品店で働いていた際、ビルの地下1階にあった喫茶店に毎日のように通った。そこで出会った深煎りコーヒーの美味しさに魅了され、天職を決意。1972年12月、36歳の時にカファブンナを開業した。

すぎやまこういちさんも愛した店

コーヒーの美味しさと店の雰囲気が評判を呼び、すぐに経営は軌道に乗った。人気ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽や「学生街の喫茶店」などで知られる作曲家の故・すぎやまこういちさんは、音楽がよく聞こえるカウンターの中央に座り、能勢さんおすすめのブレンドコーヒーを飲むことが多かったという。

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店を始めた当初から、店内では常にオーケストラ伴奏による録音でレコード化された20世紀前半のアメリカのポピュラー音楽やクラシック、シャンソンが流れている。ジャズはあまりかけない。「ジャズは当時のポピュラー音楽をアレンジしたものが多い。元の曲がこんなに美しいのに、なぜ崩してしまうのだろう」と能勢さんは持論を語る。一方で、若い客から「この曲ってジャズじゃなかったんですか」と尋ねられることも多く、「ジャズがあったからこそ、当時のポピュラー音楽が受け継がれてきたのかもしれない」とも感じている。

「うちがやめたら、こういう音楽を聴かせる店はなくなってしまうかもしれない」と能勢さんは危惧している。

店舗情報

東京都港区六本木7-17-20 明泉ビル2階。営業時間は正午から午後7時まで。水曜定休。「懐かしい映画音楽の会」はコーヒーおかわり付きで1500円。電話 03(3405)1937。