東京・三田の高層ビル群の中に、異彩を放つコンクリート打ちっ放しのビルが完成した。スペインの未完の教会にちなんで「三田のサグラダ・ファミリア」と呼ばれるこの建物は、1級建築士の岡啓輔さん(60)が20年以上かけて手作業で築き上げたものだ。
「蟻鱒鳶ル」の誕生
岡さんは、陸海空の生き物と建築家ル・コルビュジエの名を組み合わせ、このビルを「蟻鱒鳶(アリマストンビ)ル」と命名。地上4階、地下1階、高さ約12メートルの鉄筋コンクリート造りで、地下は美術ギャラリー、1階は貸店舗、2階以上を自宅とする計画だ。2026年3月10日に建築基準法に基づく完了検査を通過し、一区切りを迎えた。
建設のきっかけ
すべては結婚直後、妻からかけられた何げない言葉から始まった。「家の設計できるんだよね?」「大工仕事もできるんだよね?」「じゃあ、私たちが住む家を作ってよ」。当時30歳で建築士免許を取得したばかりの岡さんは、同年代の建築家たちの活躍に焦りを感じていたという。
セルフビルドへの挑戦
都内で土地を探し、2000年9月に約40平方メートルの土地を1550万円で購入。しかし、家の建て方に悩んでいたところ、建築家・石山修武氏のワークショップに参加し、「セルフビルド」(自力建設)というアイデアを得た。石山氏からも「それでいけ」と背中を押され、2005年11月に建設を開始した。
100人以上の協力
当初は3年程度の完成を目指したが、スコップとツルハシで地下を掘るだけで1年半を要した。その後も鉄筋組みやコンクリート打設など、友人やSNSで知り合った人々を含む100人以上の手を借りて、20年かけて完成に至った。
即興のデザイン
細かな設計図はなく、体が先に動く「即興」のデザインが特徴。岡さんは「頭で考えるより先に体が動いた」と語る。この自由な発想が、幾何学模様をちりばめたユニークな外観を生み出した。
完成したビルは、周囲の近代的な高層ビルと対照的に、手作りならではの温かみと力強さを放っている。岡さんの20年にわたる情熱と、多くの人々の協力が実を結んだ瞬間だった。



