金価格の急騰が歯科医療を直撃、銀歯の材料費が診療報酬を大幅に上回る
国際情勢の不透明化に伴う金価格の高騰が、歯科医療現場に深刻な打撃を与えています。金を含有する「銀歯」の材料費が公定価格(診療報酬)を上回る「逆ざや」が常態化しており、静岡県内の歯科医師をはじめとする関係者は頭を抱えています。投資需要が事業用途の実需を圧迫する形で、医療現場の財政を逼迫させているのです。
診療報酬の改定でも解消されない赤字、歯科医師の苦悩
「診療報酬の点数が改定されてもずっと赤字で、まるでいたちごっこだ」と語るのは、中島歯科医院(静岡市駿河区)の中島還院長(50)です。同院では、かぶせ物や詰め物などに金を含む材料「金銀パラジウム合金」を使用することがあります。いわゆる「銀歯」は、金属ならではの延びる性質と一定の硬度で壊れにくいのが特徴で、主流の材料として長年使われてきました。しかし、金高騰のあおりを受けて値上がりが続いており、経営を圧迫しています。
静岡県保険医協会によると、保険診療で使える銀歯には12%以上金が含まれています。例えば、奥歯のかぶせ物として3・5グラムの銀歯を使う場合、材料費として1万9418円かかりますが、3月時点の公定価格は1万6726円です。これにより、かぶせ物一つで2692円の負担が診療側に発生します。公的医療保険制度のもとで患者に請求できない「赤字」は年々拡大傾向にあり、少なくとも10年ほど続いているとされています。
金以外の材料も高騰、歯科医療の選択肢に影響
追い打ちをかけるように、金は2025年秋から急騰し、それに連動して銀歯に20%以上含まれるパラジウムや40~50%前後入る銀の価格も上昇中です。銀歯の材料費はこうした動きに連動して高騰しており、歯科医院の経営をさらに苦しめています。
最近では、金属を使わない材料が段階的に保険診療の対象となっており、全国でも普及が進んでいます。しかし、口内の状態によっては銀歯が最適な場合があると指摘されています。同協会の山田美香理事長は、「使う金属を少なくするために浅く削ったり、半分しかかぶせ物をしないようにしたりされるおそれもある」と懸念を示しています。その上で、「治療法がいくつかある場合は医師が選択肢を示し、そこで患者が選んでいくのが筋だ」と注意を促し、適切な医療の提供が困難になる可能性を警告しています。
金価格の急騰背景と投資需要の拡大
希少性の高さから貨幣や宝飾品として世界中で使われてきた金は、株式や債券のように発行体がなく、企業や政府の破綻で価値が失われにくい特性を持っています。国内金価格の代表的指標となる田中貴金属工業の店頭小売価格(1グラム当たり、税抜き)は、3月の平均で2万5116円をつけました。2025年11月に2万円を突破した後、昨年3月と比べて1・75倍に跳ね上がっています。
投資需要拡大の背景には、南米・中東情勢の悪化があります。米トランプ政権の経済政策や相次ぐ武力行使が国際的緊張を高めているためです。こうした中、歴史上無価値になったことのない金が、安全な資産として意識されるようになり、投資需要が急増しています。これが、歯科医療のような実需を圧迫する形で、社会問題に発展しているのです。



