「世界で最も厳しい」と言われる原発規制 その裏に潜む前トップの「強い恐怖感」
東京電力福島第一原発の事故から、まもなく15年の節目を迎えようとしている。この間、国は「世界で最も厳しい水準」とも称される新たな規制基準を策定し、審査を通過した原子力発電所が各地で再稼働を始めている。しかし、その審査を主導してきた前原子力規制委員長、更田豊志氏は今、強い不安を抱いているという。一体、何が彼に「恐怖感」を抱かせているのか。
強化された規制基準と進む再稼働
2013年に導入された新規制基準は、福島の事故を深く反省し、地震や津波、火災などに対する対策を大幅に強化したものだ。電力各社は防潮堤の建設などに巨額の投資を行い、これまでに9つの原発、合計15基が再稼働に至っている。歴代の首相らはこの基準について、「世界で最も厳しい水準」と繰り返し説明してきた。
しかし、更田氏はこうした見方に疑問を投げかける。「地震のない国と比べて要求水準が異なるのは当然のことです。過剰に喧伝されている面があるのではないでしょうか」と指摘する。彼が特に危惧するのは、福島の事故がもたらした衝撃が時間とともに薄れ、安全対策が十分だとみなされ、改善すべき点が見逃されてしまうことだ。
「事故の教訓が風化してきたのではないか、という恐怖感は強くあります」と更田氏は語る。原子力の利用には終わりのない反省が必要であり、事故を決して忘れないことが極めて重要だと強調する。
テロ対策施設の期限延長問題 事業者の姿勢に疑問
現在、安全対策をめぐる具体的な課題として浮上しているのが、テロ対策施設の設置期限の問題だ。工事計画の認可から5年以内の設置が義務づけられているこの施設について、電力会社側が規制委員会に期限の延長を求めている。背景には、建設業界の深刻な人手不足などにより工期に影響が出ていることがあるという。
更田氏は「施設が未完成であること自体が直接リスクを高めるわけではありません」と認めつつも、電力会社の姿勢に強い疑問を呈する。「あれほど大きな危険を内包する施設を管理する事業者として、『苦しくなってきたから期限を緩めてほしい』という主張が果たして許されるのでしょうか。そうした風潮そのものが、私には恐ろしく感じられます」と述べ、安全に対する意識の低下を懸念する。
継続する事故調査と忘れてはならない教訓
現在も規制委員会が進める原発事故調査の検討会に参加している更田氏は、原子力の利用には終わりのない反省が伴うと説く。「事故調査を継続し、とにかく事故を忘れないことが何よりも重要です」と力説する。福島の事故から15年が経過しようとする今、彼の言葉は、安易な安心感に陥ることなく、不断の努力を続けることの必要性を強く訴えかけている。
新規制基準の下で再稼働が進む原発の安全。その裏側では、経験豊富な専門家の深い憂いが静かに広がっている。更田氏が抱く「強い恐怖感」は、単なる個人の懸念ではなく、社会全体が共有すべき重い警鐘なのかもしれない。



