植物と昆虫の共生を支える香りの暗号が解明
鹿児島県の奄美大島や沖縄県などに自生するつる植物「カラスキバサンキライ」が、花の香りによってタマバエの一種の雌だけを選択的に呼び寄せ、花粉の運び手として利用していることが明らかになった。神戸大学の末次健司教授を中心とする研究チームが、この興味深い発見を4月6日付の国際科学誌『カレントバイオロジー』に発表した。
単一化合物が雌だけを誘引する「暗号」に
研究チームは、カラスキバサンキライの花が放出する香りの化学成分を詳細に分析した。その結果、主成分として「ジヒドロエデュラン1」という単一の化合物が特定された。この化合物は、多くの昆虫にとって忌避効果を持つと考えられている物質である。
興味深いことに、合成したジヒドロエデュラン1を用いた実験では、タマバエの雌だけが強く引き寄せられることが確認された。雄花も雌花も同じ化合物を放出しているが、野外観察ではタマバエの雌が主に雄花に産卵し、その過程で大量の花粉を体に付着させて運んでいた。
巧妙な共生メカニズムが明らかに
カラスキバサンキライは雄花と雌花を持ち、つぼみの状態からほとんど開花しない特徴的な植物である。研究チームの観察によれば、タマバエの雌が雄花に産卵した後、その雄花は落下し、内部を幼虫が食べながら成長する。
一方、雌花に卵を産み付けられて内部を幼虫に食べられてしまうと、植物は果実を形成できなくなるリスクがある。このため、植物側が特定の香り化合物を「暗号」として用い、タマバエの雌を雄花への産卵に誘導していると研究チームは推測している。
末次教授は、「この香り化合物は、植物と昆虫の間に成立した高度に特化した共生関係を支える、一種の化学的な暗号として機能している」と説明する。単一化合物が特定の昆虫の性別だけを選択的に誘引する例は極めて珍しく、進化の過程で洗練されたメカニズムが発達したと考えられる。
生態系における共生関係の重要性
この発見は、以下のような点で生態学的に重要な意義を持つ:
- 植物が昆虫の行動を化学的に制御する巧妙な戦略の一端を解明
- 単一化合物による性別特異的な誘引メカニズムの珍しい実例
- 南西諸島の固有生態系における共生関係の理解を深める手がかり
研究チームは今後、同様の共生関係が他の植物と昆虫の間でも見られるかどうかを調査し、生物多様性の維持メカニズムの解明を進めていく方針である。この研究は、人間活動による環境変化がこうした微細な共生関係に与える影響を評価する上でも重要な基礎データを提供するものと期待されている。



