公益財団法人「上原記念生命科学財団」は、生命科学分野で独創的な研究を行った科学者を顕彰する「上原賞」の副賞を、今年度から1件3000万円から1億円に大幅に増額した。この改革は、若手や中堅の基礎研究者を対象に、研究環境の変化に対応し、日本の基礎研究力を強化する狙いがある。同財団評議員会議長の上原茂・大正製薬ホールディングス社長(50)と、財団改革検討委員の戸山芳昭・国際医学情報センター前理事長(75)が、その背景や意義を語った。
上原賞の理念と改革の背景
上原賞は1985年、上原正吉・大正製薬元会長の功績を記念し、創業70周年事業として設立された。以来、生命科学の基礎研究で目覚ましい業績を挙げ、将来の発展が期待される研究者を表彰してきた。これまでに4人の受賞者がノーベル生理学・医学賞を受賞している。
戸山氏は「国内の賞は功労賞的な色彩が強いが、ノーベル賞級の研究は若手・中堅の時期に芽生える。研究者が最も苦労するのは、成果を出す直前の数年であり、上原賞はその重要な時期に飛躍のための支援を行う」と説明する。
上原氏は「創設から40年が経過し、研究環境や物価が大きく変化した。海外留学では家族同伴が増え、生活負担も増加している。時代に即した支援が必要だ」と語る。改革検討委員会では、安西祐一郎理事、戸山氏、西田栄介評議員、宮園浩平原理事の4人が議論を重ね、助成事業全体の増額を決定した。
1億円への増額理由
上原氏は「製薬企業の研究費は年間数十億円に上るが、臨床に近い研究は実用化されなければ成果が残りにくい。一方、基礎研究はすぐに成果が見えにくくとも、医療に大きな価値をもたらす可能性がある。基礎研究への投資は無駄にならず、もっと出す価値があると考えた」と述べる。
海外の研究者の高給化を踏まえ、「日本の研究者が研究に夢を持てる金額」として1億円を設定。委員からは「若手・中堅の基礎研究者を十分に支援できる」との声が上がった。上原氏は「上原賞の価値は世界の賞と競い合っている。最終的にノーベル賞に匹敵する金額となり、応募研究のレベル向上を期待する」と語る。
選考方法と対象者の変更点
選考方法については、推薦者の幅を広げ、選考ステップを増やすことを検討中だが、「将来の発展性があり、革新的な成果が出る手前で支援する」という原点は変わらない。対象者は引き続き日本人研究者とし、海外拠点に在籍する場合も対象。外国人への拡大も検討されたが、中国などが国を挙げて生命科学研究を支援する中、日本人の基礎研究を支援する必要性が確認された。
戸山氏は「今支援しなければ日本の基礎研究は手遅れになるという危機感があった」と強調する。
基礎研究支援の重要性
上原氏は「国による基礎研究支援の限界」を指摘する。「多様性の時代に国が生命科学だけに優先順位を置くのは難しく、政権交代で支援対象が変わるリスクもある。しかし、技術革新をもたらす研究は、最初のうねりを起こす力が最も重要だ。日本は独創的な研究への初期支援が不足している」と述べる。
その上で「公益法人である財団が目利きの先生をそろえて審査し、国が民間プラットフォームを活用して長期的に基礎研究を支援する仕組みが広がることを期待する」と語る。
企業利益とのかかわり
増額に際し、自社の直接的利益を追求する判断はなかったという。上原氏は「大村智先生の研究が寄生虫病薬として実用化され、多くの人命を救った例のように、基礎研究は将来、企業や社会に還元される。上原賞は大正製薬にとって将来に生きる投資だ」と述べる。
戸山氏は「日本の基礎研究はまだ強い。上原賞がノーベル賞の登竜門と見られるようになってほしい」と期待を寄せる。
研究者へのメッセージ
上原氏は「研究者には自分のやりたいことをあきらめないでほしい。研究の継続に困っているなら、ぜひ応募し、熱い思いを伝えてほしい」と呼びかける。
上原財団は2026年度の上原賞、研究助成、海外留学助成の募集を6月中に開始する。採否決定は12月、贈呈式は2027年3月。応募条件の詳細は財団ホームページで掲載される。
上原賞とノーベル生理学・医学賞の両方を受賞した研究者と受賞年は以下の通り。
- 大村智・北里大特別栄誉教授(上原賞1988年、ノーベル賞2015年)
- 本庶佑・京都大特別教授(1993年、2018年)
- 坂口志文・大阪大特別栄誉教授(2007年、2025年)
- 山中伸弥・京都大教授(2008年、2012年)



