京都市産業技術研究所(産技研、下京区)は、府内の西陣織メーカーと協力し、製織工程で発生する「織り傷」を人工知能(AI)で自動的に検出するシステムの開発を進めている。現在は熟練職人の目視検査に依存しているため、このシステムが実用化されれば省人化が進み、伝統産業が長年抱える人手不足の解消に寄与する可能性がある。
西陣織の課題とAIの役割
西陣織に使用される細い絹糸は、わずかな張力の変化や摩擦で切れたり絡んだりしやすい。製織工程では、織機の誤作動や異物混入のリスクもあり、熟練者であっても織り目の乱れや穴などの「織り傷」が生じることがある。傷があると商品価値が失われるため、職人は傷を発見次第、織機を停止し、問題部分をほどいて除去し、正常な状態から再開する必要がある。このため、織機1台に1人の職人が常時対応しなければならず、熟練者でも同時に2台を見るのが限界とされる。
「織物未来共創ラボ」の取り組み
産技研は2024年2月、西陣まいづる(上京区)、宮階織物(同)、養父織物(京丹後市)など5社と「織物未来共創ラボ」を結成した。織機の稼働中に織物画像を撮影できるカメラを設置し、職人の「目」をAIに代替させることで、1人の職人が同時に管理できる織機の台数を増やし、工程の省力化を目指している。
教師なし学習の採用
AIの学習機能を高めるには、正常データと異常データの両方を用いるのが一般的だが、多品種少量生産が特徴の西陣織では、すべての異常データ(織り傷)を収集することは事実上不可能だ。そこで産技研は、AIに正解を与えずに判断させる「教師なし学習」を採用した。AIには各社が提供した「正常なデザイン画像」のみを与え、構造や関連性、パターンを分析させる。これにより、AIはあらゆるデザインに対して即座に判断し、異常を自律的に検出できるようになる。
現状と今後の展望
現時点では、AIが長さ約1センチの傷を自動検出できる段階に達している。産技研は精度向上に向けた検討を重ね、早ければ年内、遅くとも来年中の実用化を目指している。産技研産業技術支援センターの本田元志主席研究員は「職人不足には、仕事の過酷さや歩合制などの契約形態も影響している。1人で管理できる織機が増えれば状況は大きく改善される。その一助になれば」と期待を語る。
伝統産業のデジタル化の広がり
産技研は、西陣織以外の伝統産業向けにもデジタル支援技術を実用化している。京友禅の一種である「型友禅」では、型紙を用いて模様を染める工程において、市販の「カッティングプロッター」を活用した型紙自動彫刻システムを開発。従来は職人の手業に依存していたが、高齢化や後継者不足に対応するため、2022年から京都市内の型紙メーカーで導入されている。
また、陶磁器などの伝統工芸品製作では、原型を石膏などから手作業で作る工程を、産技研が提供する3Dプリンターなどのデジタル技術に置き換える取り組みも進む。市内の陶磁器メーカーによる「カレーを最後の一口まですくいやすい皿」の開発などに関わった竹浪祐介主席研究員は「手間やコストの削減だけでなく、新しいアイデアを素早く形にしたい若手作家の支援にも役立つ」と話す。



