チェロのニコラ・アルトシュテット(写真左)とピアノのヨーナス・アホネン(同右)によるデュオリサイタルが、5月26日に飯田橋のTOPPANホールで開催された。音楽評論家の沼野雄司氏が、その知性あふれる演奏を高く評価した。
ベートーヴェンから始まる未知の音風景
リサイタルの幕開けはベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第1番」。アルトシュテットのチェロは、まるで語りかけるような抑揚で旋律を呼吸させ、膨らんだり萎んだりするダイナミクスが印象的だ。単なる美しさや心地よさを超え、正統的とも言い難い。音がめまぐるしく動き、瞬間的に形を変え続ける様は、運動そのものを聴いているかのようだ。
ドビュッシーの作品では、フランスのエスプリが柔らかく奏でられるのではなく、浮遊する人魂が頬を撫でながらホールを駆け巡るような感覚。ピアノのアホネンも同様に動き、よく語る。聴き手の耳は忙しく、何が飛び出すか油断できないが、それがなんとも楽しい。
バーバーとブリテンでの対照的な魅力
バーバーの「チェロ・ソナタ」では、チェロのたっぷりしたカンタービレが味わえる。正統的にチェロが歌い、ピアノが支える展開に、聴き手の思いが見透かされているようで悔しいほどだ。最後を飾ったブリテンのソナタは、一筋縄ではいかない複雑な楽曲。二人は第3楽章で超弱音を競い、第5楽章では敢えての「厳密さ」を競い合い、当曲の演奏史に新たな一頁を加えるアイディア豊かな演奏だった。
一貫した知性と音楽的生理の手前
一貫して感じられたのは「知性」としか言いようのないもの。音楽的な生理に溺れるほんの少し手前で、様々なたくらみが仕掛けられている。こうした演奏者がもっと増えてほしいと、沼野氏は結んだ。
本公演は、クラシック音楽に新たな風を吹き込む、記憶に残る一夜となった。



