パティシエ横須賀直生、故郷福島・楢葉町でカフェ開業 地域の絆を紡ぐ挑戦
パティシエの横須賀直生さん(38)は、東京やドイツで菓子作りを学び、7年ほど前、出身地の福島県楢葉町にUターンしてカフェレストランを経営しています。子育てをしながら菓子を作り、地元の人々や移住してきた人々の心のよりどころとなる居場所を提供しています。
カフェレストラン「リーベ テーブル」の開業と地域への思い
昨年10月にオープンしたカフェレストラン「リーベ テーブル」は、お客さんと従業員との会話が活発な店です。地元の人がお茶をしに来たり、子育て中のママがケーキを買いがてら話をしに来たりと、多様な人々が集まる場となっています。
料理人の夫が地元食材を使ったパスタやピザなどのイタリア料理を作り、横須賀さんはサツマイモのプリンやフルーツタルトなどのケーキや焼き菓子を担当しています。レストランを開く前は、楢葉町で5年ほど洋菓子店を経営していました。
Uターンする前、慣れない土地での子育てで寂しい思いをした経験があったため、ママたちが話ができて、羽を伸ばせる場になればと考えていました。また、県外からのお客さんに町の魅力を伝えたいとも思っていましたが、飲食・休憩のスペースがないことが悩みでした。ゆっくり過ごせる場を作りたいとカフェ事業に挑戦し、クラウドファンディングで大勢に支援してもらい、開店にこぎ着けました。
ドイツ留学とキャリアの転機
ドイツに留学し、お菓子を食べ歩くパティシエを目指したきっかけは、母親に「手に職をつけなさい」と言われたことです。高校卒業後、東京の専門学校で学びました。受け取る相手を想像しながらケーキをデコレーションする時間は楽しく、神奈川県内の洋菓子店で4年ほど勤務しました。
その後、ドイツに1年語学留学しました。理由はドイツ菓子「バニラキッフェルン」のおいしさに衝撃を受けたからです。留学中は周辺7か国の様々なお菓子を食べ歩きました。ドイツでは年齢に関係なく、好きなことをやって輝いている様々な国籍の人と出会い、横須賀さんも「これからの人生、自分の軸で考え、好きなことをやって生きよう」と決意しました。
結婚、子育て、そして故郷への帰還
帰国後は、22歳の頃から付き合っていた夫と26歳で結婚しました。夫の地元・水戸のホテルでパティシエとして働き、28歳で長女を、翌年に長男を出産しました。当時、頼れる人がおらず、子育てしながら仕事を続ける自信がありませんでした。
その頃、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による全町避難が解除され、楢葉町の実家に帰宅する機会がありました。避難指示解除から2年たった頃です。地元で夏祭りが開催され、子どもから高齢者まで楽しそうに踊っているのを見て、「私も楢葉に住みたい。自分の店を持ちたい」との気持ちが湧きました。
ただ、Uターンを決断するまでに時間がかかりました。風評被害も残る地元で、安心して子育てし、穏やかな生活が送れるのか。夫婦で話し合いを重ね、「家族で頑張ってみよう」との結論に至りました。
地域コミュニティへの貢献と未来への展望
地元に戻ってまもなく7年。人情味あふれる人が多く、皆、地域を盛り上げようと頑張っています。横須賀さんは店を続けることで、「人と人をつなぐ交差点になりたい」と語ります。楢葉町で働きたいという若者の雇用にも、力を入れていきたいと考えています。
記者の取材後記によると、横須賀さんは「地域のお母さん」のような包容力を持ち、子育て、移住や起業の相談に乗り、人と人をつないでいます。「楢葉の魅力は人。愛情を持って一人一人抱きしめるように接している」と話しています。横須賀さんが頼りになるのは、子育て中に感じた孤独や、仕事と育児を両立する上での葛藤、原発事故の風評被害に対する苦悩や経営者として店を切り盛りする苦労などに、実際に直面して乗り越えてきた経験と強さがあるからでしょう。
この記事は「30代の挑戦」企画の一環で、各界で活躍する女性たちに、キャリアの転機とどう向き合ったかを読売新聞の同世代の女性記者がインタビューしたものです。



