建築の未来は「再利用」にあり 山崎篤史氏が提唱する建物への愛着と持続可能な社会
建築の未来は「再利用」に 山崎篤史氏が描く持続可能な社会

建築の新たな潮流 再利用と愛着が創る持続可能な社会

大量のコンクリートを用いて新築を繰り返す時代の先に、どのような未来が待ち受けているのか。この問いに向き合い、気鋭の建築士である山崎篤史氏(43歳・兵庫県)は「再開発」ではなく「再利用」への道を模索し続けている。その真意と展望について、戎野文菜記者が深く掘り下げた。

壊す時代からの脱却 三つの選択肢と建築士の決断

建築の世界において、古くなった建物には主に三つの道が存在する。一つ目は、取り壊して新たに建設する「再開発」。二つ目は、歴史的価値を保ちながら元の姿に戻す「修復保存」。そして三つ目が、リノベーションとも呼ばれる「再利用」である。

大手ゼネコンで働く山崎氏は、最も収益性の高い再開発を選択すると思われがちだが、実際には新築を希望する顧客に対し「再利用する道もあります」と提案することさえあったという。この姿勢は、中野駅前再開発のシンポジウムでも明確に示され、参加者に新たな視点を提供した。

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実践例から見る「再利用」の可能性

山崎氏が2023年から2024年にかけて実際に手がけたプロジェクトが、神戸市にある「大阪避雷針工業神戸営業所」の社屋である。築35年を経た鉄筋コンクリート造の建物を生かし、外観と使い勝手の向上を目指した依頼に応え、減築と増築を巧みに組み合わせて実現させた。

地球環境を考慮した「減らす」建築がここで重視された。新築よりも再利用の方が必要な資材が減少し、地中で何万年もかけて形成される石炭や石油の使用を抑制できる。山崎氏は国産木材の活用と職人の技術への投資を推奨し、持続可能な建築を追求している。

困難を乗り越える「再利用」への情熱

再利用は新築以上に手間がかかり、設計の難易度も高い。重機を大規模に使用せず、人が部分的に解体する必要があるなど、工事にも独特の課題が伴う。それでも山崎氏がこの道を選ぶ背景には、2008年北京オリンピックの会場が10年後に廃虚のように寂れた姿で報道された記事がきっかけとなっている。

「私たちは大量のごみを造っていたのでは」という現実を突き付けられて以来、時間が経過してもごみにならない建築を考え続けてきた。昨年の大阪・関西万博では「森になる建築」と名付けられた休憩所を設計。植物由来の樹脂を使用し、建築3Dプリンターで建設したこの施設は、時間の経過とともに分解され土に還る仕組みとなっている。

構造強度を超える「愛着」という寿命

山崎氏が重視するのは資源や材料だけではない。建物への「愛着」をいかに育むかも重要な要素である。日本最古の木造建築である法隆寺を例に挙げ、「建築の寿命は構造物の強度だけでなく、愛着によって決まる。どれだけ頑丈に造られていても、人々が手入れをしなければ壊れていってしまう」と語る。

この考え方は、大阪避雷針工業神戸営業所の社屋にも反映されている。電球の交換を容易にする設計や、不具合修理用の工具を配置したスペースの設置など、「使う人が自分たちで建物を手入れできる余白」を意識した設計が特徴だ。内装に多用された国産木材は「経年美化」をコンセプトとし、雑巾がけや油塗りによって光沢が増し、深みのある色合いに変化していく。

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従業員に浸透する建築哲学

山崎氏の理念は、社屋を使用する従業員たちにも早い段階で理解されていた。完成間近、屋外の植え込みに散水装置を設置するか検討していた際、「山崎さんのコンセプトだったら、自動で水をやらないほうがいいんじゃないの?」という声が上がったという。建築士としてこれ以上の喜びはないと、当時を振り返る山崎氏の顔は自然とほころんだ。

既存建物を「地形」と捉える発想の転換

東京都内では、中野駅前のランドマーク「中野サンプラザ」の取り壊しと新築計画が進められていた。建設費の高騰などにより計画は白紙に戻ったものの、解体の方針は変わっていない。山崎氏は昨年、他の建築士たちと視察し意見を交わした上で「再利用も含め、他の道も平等に検討してみては」と提案している。

バブル期のように巨額の資金を投じて手の込んだ建築物を造る機運は薄れつつある。山崎氏は「すでに日本にはたくさんの建物がある。今ある建物を『地形』と捉えて、そこから建築を考えることで、豊かな社会がつくれるのではないか」と強調する。

持続可能な未来への小さな選択

今月の鍵となるのは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「住み続けられるまちづくりを」と目標12「つくる責任 つかう責任」である。巨大事業を左右する選択だけでなく、私たちの日々の選択も政治や経済を動かしている。

一部の人々だけでなく地球全体を見渡し、一時的な価値ではなく未来を見据える視点が求められている。山崎篤史氏の発想は、まちづくりや私たちの日常生活において重要な示唆を与えてくれる。再利用と愛着を基盤とした建築が、持続可能な社会の実現に向けた確かな一歩となるだろう。