水鈴社が本屋大賞で快挙 ひとり出版社からヒット連発の秘密に迫る
水鈴社が本屋大賞で快挙 ひとり出版社のヒットの秘密

小さな出版社が本屋大賞で10分の2を占める快挙

東京都千代田区神田神保町に位置する出版社「水鈴社(すいりんしゃ)」が、出版業界で大きな注目を集めている。全国の書店員が投票でその年の一番売りたい本を決める「本屋大賞」において、今年ノミネートされた10作品のうち、瀬尾まいこ氏の『ありか』と夏川草介氏の『エピクロスの処方箋』の2作品を同社が出版。創業わずか6年目の若い企業が、老舗や大手出版社が並ぶ中で「10分の2」を占めるのは史上初の快挙となった。

ひとり出版社から始まった少数精鋭の挑戦

水鈴社は2020年、代表の篠原一朗氏(48)が編集者1人という「ひとり出版社」として創業。現在はアルバイトを含めても7、8人という小所帯ながら、これまでに出版した書籍は20冊と決して多くはないものの、話題作を次々と生み出している。

昨年出版した小説3作品のうち、『ありか』は約7万7000部、『エピクロスの処方箋』は9万4000部を記録。さらに、映画化でも話題となった川村元気氏の『8番出口』は18万5000部の大ヒットを達成した。これらの実績は、少数精鋭の体制が生み出す質の高さを物語っている。

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「本当に推せる本」に手間をかける編集哲学

なぜ水鈴社の作品はこれほど売れるのか。その秘密は、篠原代表の編集哲学にある。幻冬舎や文芸春秋で経験を積んだ名編集者である篠原氏は、「大きな会社は売上を立てるために本をたくさん作らなければならないが、私はそれに忸怩たる思いがあった」と語る。

同社の姿勢は「本当に推せる1冊」を「売れる1冊」に育て上げること。篠原氏は「漫然と作品を出して終わりにはしたくない。刊行前から届け方を徹底的に議論し、早くから映像化も見据える。一つの作品で5年先まで楽しくビジネスができる仕掛けを考えている」と説明する。

この丁寧な編集姿勢は作家たちの厚い信頼を獲得。瀬尾まいこ氏、夏川草介氏に加え、角田光代氏、あさのあつこ氏、大沢在昌氏ら人気作家が同社に作品を寄せるようになった。夏川氏は「出版社によっては売れるものが良いものだと言い切る人もいるが、水鈴社はそうではなかった」と評価する。

出版業界の逆風の中で光る存在

現在、出版業界は厳しい状況に直面している。総務省の調査によると、出版社数は2019年の4068社から2024年には3774社に減少。市場規模もこの5年間で1000億円以上縮小した。書店の減少も深刻な問題となっている。

こうした逆風の中、水鈴社の成功は業界に希望を与える存在だ。篠原代表は「一冊の本が人生を劇的に変えられるとは言い切れない。それでも、読むと少しだけ前を向ける、少し良い方向に世界が変わっていく、そんな本をこれからも出していきたい」と語り、今後の活動への意欲を示した。

水鈴社は株も不動産も持たない小さな出版社ながら、著者と書店員と手を携え、出版業だけで勝負を続ける方針。売上や数字だけを追う風潮が強まる現代において、一冊一冊を丁寧に作り、読者に届ける同社の取り組みは、出版文化の未来を考える上で重要な示唆を与えている。

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