こだま新作小説「けんちゃん」刊行 特別支援学校舞台に心のまま生きる姿描く
こだま新作「けんちゃん」刊行 特別支援学校舞台に生きる力

こだまが初のフィクション小説「けんちゃん」を刊行 特別支援学校舞台に心のまま生きる姿を描く

累計23万部を超えるベストセラーとなった私小説「夫のちんぽが入らない」で作家デビューしたこだまが、このたび初めてフィクションとして執筆した小説「けんちゃん」(扶桑社)を刊行しました。本作は特別支援学校に通うダウン症の少年「けんちゃん」との交流を通じて、周囲の人々が生きる力を得ていく物語です。

特別支援学校の臨時職員経験を活かした多視点の描写

作者のこだま自身、特別支援学校で3年間臨時職員として働いた経験を持っています。当時出会った生徒がけんちゃんのモデルとなり、その突拍子もない発想やユーモラスな言動が作品に生き生きと描かれています。こだまは「いろいろな視点から、一つが正解じゃない、いろんな考え方があるって描いたのは、当事者の顔が浮かんだのが大きい」と語り、多様な視点を大切にした創作過程を明かしました。

オホーツク海に面した北海道の町を舞台に、けんちゃんと交流を持つ4人の人物が互いに影響を受け合い、成長していく様子が丁寧に描かれます。特に、自身の経験に近い職員の視点で書いた章では「身動きできなくなった」という困難もあったものの、コンビニ店員という体験からかけ離れた視点で書いた部分では「流れがつかめた」と、新たな発見があったことを述べています。

「普通」とは何かを問いかける物語の核心

前作「夫のちんぽが入らない」では、夫と性交渉ができない主人公を通して「普通」の概念に疑問を投げかけました。今作でも「普通じゃない、欠けた部分を持つ主人公たちを選んだ」と語るように、同様の問いが作品全体に響いています。

例えば、障害の程度が軽度で特別支援学校に通うことに不満を持つ女子新入生の葉月は、「障害者」とひとくくりにされることに反発します。こだまは「障害があるだけで大変な運命を背負っているという偏見を持ってしまったりする。1人の人として接した方がいいと思っていて、それは作品にも反映されています」と説明します。葉月もまた、周囲の評価を気にせず心のままに振る舞うけんちゃんに次第に引きつけられていきます。

けんちゃんの不変性が周囲に与える影響

「けんちゃん自身は一貫して変わらない。障害があっても乗り越えようというのではなく、どっしり構えている。暗くなりそうな時もけんちゃんが出てくることで場が明るく、柔らかくなっていく。みんなに幸せになってほしくて、けんちゃんと付き合いながら少しずつ変わっていく様子を描きたかった」とこだまは語ります。

ダウン症のけんちゃんの言動は常に周りの予想を超え、ユーモラスで爽快なものとして描かれています。その一貫した在り方が、悩みを抱える周囲の人々に静かな影響を与え、彼らが少しずつ変化していく過程が丁寧に紡がれています。

エッセイストから小説家への新たな挑戦

講談社エッセイ賞を受賞するなど、エッセイストとして高く評価されてきたこだま。今回、初めてフィクション要素の強い小説を書き上げたことについて、「自分じゃない人を書くのって面白いと気付いた」と語り、表現の幅を広げていくことへの意欲を示しました。

編集者から話をもらってから完成までに9年の歳月を要した本作は、多視点での執筆という新たな挑戦でもありました。こだまは「生き方に悩んでいる人に読んでもらいたい。けんちゃんの生き方を見て何かが変わるきっかけになれば」と読者へのメッセージを寄せています。