沖縄の痛みと向き合う若者たちの物語、豊永浩平が新作「はくしむるち」を刊行
沖縄県出身の作家、豊永浩平さん(22歳)が、2作目の長編小説『はくしむるち』(講談社)を刊行しました。この作品は、今なお続く沖縄の痛みや傷にどう抗うのかというテーマを深く掘り下げ、前作『月ぬ走いや、馬ぬ走い』からさらに鋭さと深みを増しています。
沖縄戦から現代まで、暴力の構図を能動的に描く
豊永さんは琉球大学在学中の一昨年にデビュー作を発表し、群像新人文学賞を受賞しました。その頃、沖縄では米兵による性暴力事件が相次ぎ、卒業後に上京した豊永さんは、地元では連日報じられる基地問題のニュースが東京ではあまり取り上げられないことに気づきました。この経験から、「繰り返されている暴力の構図をもう一回、能動的に書きたかった」と語っています。
主人公の成長と沖縄戦を生き延びた大伯父の人生
物語の主人公は、ウルトラマンやガンダム、ハリウッド映画に夢中な「オタク」の行生です。小中学校で陰惨ないじめに遭いながらも、グラフィックアートを通じて成長する行生と、少年兵として80年前の沖縄戦を生き延び、行生を見守る大伯父・修仁の人生が交互に描かれます。特徴的なのは、行生を「きみ」と二人称で呼ぶ文体で、読者が物語と視点を共有するように工夫されています。
若者たちの連帯とグラフィティアートによる抵抗
行生だけでなく、複雑な家庭環境に育つ瑞人、沖縄の伝統芸能・組踊に打ち込む円鹿、祖父が元米兵でメジャーリーガーを目指すクリスなど、多様な若者たちが葛藤を抱えています。やがて彼らは連帯し、米軍基地の壁にグラフィティ(スプレーアート)を描く計画を実行に移します。題名の「はくしむるち」は“白紙もどき”を意味し、壁を白紙に見立てて絵や文字を描く行為が、人と人を遮る壁を越えようとする抵抗として描かれます。
サブカルチャーと伝統文化をリンクさせた境界越えのテーマ
今作では「境界を越える」ことも重要なテーマです。サブカルチャーと沖縄の伝統文化や民俗宗教を結びつけ、現実の問題を浮き彫りにしています。例えば、ウルトラマンは沖縄の信仰である「ニライカナイ」から訪れるミルク菩薩と重ねられ、救いを求める絶望が沖縄の現実と重なります。また、組踊の演目や怪獣ムルチを通じて、性暴力や差別といった苦しみも描かれます。
豊永さんは、「今を生きる少年少女たちが現実の障壁を変えていくきっかけは、サブカルチャーや絵だと思った」と語り、個人的な趣味から連帯へと広がる形を想像しました。登場人物たちは時に怪物になり、時にヒーローとなり、いじめられっ子だった行生が暴力に立ち向かう逆転が、沖縄の希望として提示されています。読者もまた、壁とどう向き合うかを問われる作品となっています。