盂蘭盆会近づく中での探索報告と吉原への話題転換
盂蘭盆会も近いある日、完治は探索の結果を伝えるために、惣十郎の屋敷を訪れた。与助に命じて行わせた弓浜宗佑の身辺調査では、彦根の蔵屋敷に棒手振として出入りさせ、青菜を売りながらさりげなく人となりを藩士らから聞き出した。張り込みも行われたが、不審な点は一切見られなかったという。
「ただただ人の好い男だそうで、目上の藩士から重宝されておりますし、下の者にも慕われておりますね。実直にお役目もこなしてるってぇことでした」
与助の見立てでは、叩いても埃は出ないだろうということであった。
和平からの河本旦那の逸話
一方で完治は、鍛冶町で番太郎を担う和平から話を聞き取った。六十を過ぎて役を息子に譲った和平は、縁台に座して団扇を使いながら目を細めて語った。
「河本の旦那ですか。懐かしいねぇ」
和平によれば、河本旦那は近く役を退くことから大いに逸っており、最後に一花咲かせたいと願っていた。和平は源次郎から聞いた話をちらりと漏らしたところ、すぐに武器を造っていた女がお縄となり、大手柄を上げて気持ちよく役目を終えられたという。微塵の後悔も見えぬ晴れ晴れした顔で、和平はこの出来事を語ったのである。
惣十郎の忌々しい反応と吉原への話題
完治がこの報告をすると、惣十郎は「どうせ、そんなこったろうと思ったぜ」と忌々しげに吐き捨てた。そして、お粂の件とはまるで関係のないことを尋ねてきた。
「ところでお前さんは、吉原にゃあ詳しかったな」
とっさに完治は口ごもる。通ってはいるが、詳しいと誇らしげに答えられる類いの場所ではないと感じたからだ。惣十郎は続けて、武家の妻女が大門を潜るようなことは物見としてもめったにないと指摘した。
完治は応えて、「へえ。八朔のときは見物に来る女もおりますが、町人がほとんどですね」と答えた。毎年八月朔日には、花魁たちが白無垢に身を包んで仲の町をそぞろ歩く行事があり、この日から吉原俄も始まるため、廓内は見物客でごった返す。平素は男しか客のない吉原に、女の客が押しかけるのもこの時季なのである。



