庭のだいだいの木が育む四半世紀の物語
東京都世田谷区に住む毛利美緒子さん(79)は、庭の日当たりの良い場所にだいだいの木を植えてから、既に四半世紀が経過した。毎年、大ぶりの青い実を付け、お正月を過ぎたあたりから次第に鮮やかなだいだい色へと変化していく。この木は、単なる植物ではなく、家族の歴史と季節の移ろいを刻む大切な存在となっている。
オレンジ工房の始まりと季節の楽しみ
高枝切りを使って少しずつ収穫しただいだいは、厚い皮の美しい色合いを生かし、マーマレードやオレンジピールへと変身する。冷たく乾燥した空気が漂うこの季節は、オレンジピール作りに最適で、朝から茹でこぼしたり、ほどよい苦みを残しながらほろ甘く煮詰めたりする工程が始まる。作業を進めるうちに、家中にかんきつ類の爽やかな香りが立ち込め、夫が「今日はオレンジ工房?」と台所をのぞきに来ることも、日常の小さな喜びとなっている。
天候の影響で美しい色に仕上がらない日もあるが、パリッと乾燥させてグラニュー糖をまぶすと、鮮やかなオレンジピールが完成する。これをビターなチョコレートでコーティングし、小袋に入れて子供や孫たちに郵送する。なかでも、ついご無沙汰になりがちな郷里の姉や兄に近況報告の手紙を添えて送ることは、この季節の大切な行事として定着している。
家族の絆を深めるオレンジ工房の贈り物
子供や孫から届くお礼のメールは心温まるもので、姉や兄との久々の長電話も、早春のオレンジ工房ならではの楽しみとなっている。この小さな工房は、単に食べ物を作る場ではなく、家族や親族との絆を再確認し、温かい交流を生み出す場として機能している。毛利さんにとって、だいだいの木は、自然の恵みと共に、人生の豊かさを実感させる存在なのである。



