将校の悪夢と目覚め:『スモーキングルーム』第166回で描かれる心の闘い
千早茜氏による連載小説『スモーキングルーム』の第166回が、2026年3月10日に公開された。本稿では、将校が経験する不気味な夢と、その後の目覚めを通じて、彼の内面に潜む心理的葛藤が鮮明に描かれている。
暗闇に浮かぶ青い眼の幻影
その晩、将校は誰かに覗き込まれる夢を見た。部屋は暗く、読書灯だけが微かに灯っている。腰に手をやっても拳銃はなく、内ポケットのナイフもない。息を殺し、素早く覗き込む者の肩を掴み、押し倒すと、そこには青い眼があった。
それは将校自身と同じ色の眼だが、より青く澄んでおり、森の奥にある静かな泉を覗き込んでいるかのようだった。月光が差し込み、短い銀髪が輝く。「お前は誰だ」と将校が問いかけても、青い眼は答えない。「銀髪だが雑草には見えない」と呟き、美しいと感じた将校は、服の襟元を掴み、ボタンを引きちぎった。
過去の記憶と逃避の瞬間
白く平たい胸が現れ、透けるような肌に触れようとしたその時、将校の脳裏に粛清した男の姿がよぎった。腹周りに贅肉を溜めた胸毛だらけの穢らしい男であり、その男が寝床を共にしていた青年は、白くなめらかな肌をしていた。
将校は悲鳴をあげ、寝台から飛び降りた。膝がつき、足が動かない。床を這うようにして逃げる中、長官が丸眼鏡を光らせて自分を見つめ、薄い唇で「駄犬が」と軽蔑したように呟く。将校の周りでは裸の女たちが踊り、闇の中で胸を揺らし、艶やかな唇で笑い、色とりどりの髪を揺らしていた。
なんとか逃れようと、つるつるした床に爪を立てると、白い手が指に触れた。心地好い静かな冷たさを感じ、青い眼が微笑んでいた。
朝の光と鏡の中の自分
カーテンの隙間から朝日が差し込み、暗い部屋に一筋の線を描いた。将校は薄く目を開け、床から身を起こした。飲み過ぎたのか、打ったのか、側頭部が響くように痛む。視線を感じて目を遣ると、大きな鏡が前にあった。
そこには、いつも寝る時のような裸の自分が映っている。金色の髪に、白い肌、整った目鼻立ち、そして青い眼。鏡に映った自分だったのかと安堵するが、手には吸いつくような感触が残っていた。将校は掌を床に擦りつけ、シャワーを浴びるために立ち上がった。
ホテルでの不穏な朝
「総支配人は早朝から外出しております」と、ホテルの従業員が心から申し訳なさそうに言い、目を伏せる。噓臭い追従を怒鳴りつけたい気分だったが、二日酔いでひどく頭が痛んだ。将校はオレンジジュース一杯で森のホテルを後にした。
この回では、将校の悪夢と現実の境界が曖昧に描かれ、彼の心理的混乱と社会的プレッシャーが浮き彫りにされている。青い眼の幻影は、自己認識や過去の罪悪感を象徴する要素として機能し、読者に深い余韻を残す内容となった。



